中流崩壊/橋本健二

 

 

 マルクス主義的な階層論を専門とされている社会学者の方が語られた、日本における「一億総中流」と言われた社会の崩壊と「格差社会」の出現を語られた本です。

 

 元々日本における中流意識の拡大というのは、アメリカにおける「階層帰属意識」調査に端を発しており、同様の調査を日本でも1967年から国民生活白書の中で実施しており、1977年の調査において「中の上」「中の中」「中の下」を合わせると9割以上もの人々が自らを「中流」と規定したことから「一億総中流」と言われるようになったということです。

 

 ただ、実はその頃から「格差」の拡大を示す統計数値が表れ始めており、かつ国民生活白書の統計の取り方からして、上中下のどこに属するかと聞かれたら、日本人の国民性からして「中」と答える傾向が強くなるでしょ!?という統計の手法のマズさを指摘する向きもあり、元々「一億総中流」自体が根拠の薄いモノだとする意見もあるのですが、格差を図る指数として知られる「ジニ係数」が1970年代初頭に0.31台という世界市場においても稀に見る低さを示したことから、ある程度実態のあったものであることを指摘されています。

 

 ただ、高度経済成長期を経てジリジリと格差が拡大し、日本全体が熱に浮かされたバブル期も実は格差は拡大し、小泉政権規制緩和による非正規雇用の拡大が決定打となり、格差が誰に目にも明らかなモノとなり、2007年に出版された山田昌弘さんの『希望格差社会』がその認識を象徴する著作だったということで、この本でも取り上げられています。

 

 橋本さんは、さらに「中流」を、自営業者など「上流」には至らないまでも生産手段などの経営資源を持つ自営業者を「旧中間階級」、大企業の管理職などを「新中間階級」と規定して分析をされているのですが、コロナ禍において、片やリモートワークなどの施策もあって雇用が確保された「新中間階級」に対し、片や飲食業や観光業などを中心として廃業の間際に追い詰められた「旧中間階級」の格差も拡大し、「旧中間階級」の「中流」からの離脱も懸念され、最早「中流」は風前の灯火のように見えます。

 

 最終章で「中流を再生させるには」という章が設けられてはいるものの、かなり可能性は低そうで、「格差」を助長した自民党政権に対して政権交代を担いうるリベラル勢力の台頭を期待されていますが、コロナ禍の自民党の失政という敵失があった状況においても政権交代を成し得ない野党には当分期待できそうになく、まだまだ格差は広がって行きそうです…