街場の大学論 ウチダ式教育再生/内田樹

 

 辛口の評論で知られる思想家の内田樹さんが神戸女学院で教鞭を取られていた2007年に出版された大学教育に関する評論を文庫化したモノです。

 

 個人的にはごく最近はそうでもないんじゃないかと思うんですが、この頃大学生の基礎学力の低下が叫ばれていたようで、大学入試を勝ち抜いてきたはずの大学生に対して単純な数学や漢字の補修をするのをグチっておられますが、それ以前に大学教育自体も当時の経済界の要請を受けて、就職の予備校化していくところにも危機感を呈しておられます。

 

 本来、大学における学問というのは豊かな教養を身に付けるためのモノであるはずで、”知の怪人”佐藤優さんが最近のエリート育成に関する著書でリベラルアーツ教育の重要性を再三強調されていたり、出口さんも「教養」を身に付ける教育の重要性を語られているように、ホントにグローバルな場で活躍するような人材を育成しようとしたら、本来的な大学での教育を徹底して行くべきであるはずで、こういう目の前の課題だけにしか役に立たないハウツーを教えても、長い目で見るとビジネスに役に立つ人材にはならないはずで、経済界もそれだけ長期的な視点を欠いているということなのでしょう…

 

 また、先日ノーベル物理学賞を受賞された眞鍋淑郎先生が、思ったような研究をすることが難しいことから日本を出てアメリカに研究の機会を求めたを表明されたことがキッカケになって、日本の大学における研究環境の貧困さがクローズアップされたように、若くて有能な研究者の研究を阻害するような状況を紹介されていて、10数年前から状況は全く変わっていないようで、大学においては教育する側される側双方に大きな問題を抱えていることを指摘されています。

 

 最近は随分と怪しくなってきましたが、この頃はまだ自然科学分野ではそれなりのプレゼンスを示してきた日本の大学ですが、やはりトップレベルでグローバルな場での競争となると欧米の研究に勝てない部分があったということなのですが、そういう僅差の部分がリベラルアーツの欠如の部分にあるんじゃないかということで、即物的な「実学」ばかりを追い求めていると、どんどんジリ貧になっていくんじゃないかと戦慄を覚えます。