佐藤優の裏読み国際関係論

 

 

 ”知の怪人”佐藤優さんが語る「ウィズコロナ、アフターコロナの国際関係」論です。

 

 この本、佐藤さんの本にしては珍しく200ページ足らずの薄目の本なんですが、これまた佐藤さんにしては珍しく端的なモノ言いが多いので、かなりシンプルな論旨で、あまり国際関係論に馴染みのない人でも比較的理解しやすいモノなのかも知れません。

 

 佐藤さんによるとコロナ禍が世界にもたらした大きな変化として、「グローバリゼーションに歯止めがかかった」ということと「格差の拡大」の2つを挙げておられます。

 

 コロナ禍以前の世界では、GAFAを始めとする巨大グローバル企業がビジネスを主導し、いわゆるグローバルなマーケットとして地球全体が一体の市場のような状況を呈しておりましたが、コロナ禍によって国家主権の役割が重要となり、今後も、ここ10年くらいと比較すると国境を意識することが増えるということです。

 

 第二の「格差の拡大」というのは、日本国内でもよく言われていますが、「国家間の格差」「地域の格差」「階級の格差」「ジェンダー間の格差」という4重構造と言える状況が出てきているということで、シングルマザーなどの貧困が大きな問題としてクローズアップされているというワケのようです。

 

 そういう状況の中での国際関係論ということで、バンデン氏が大統領となったアメリカと中国のせめぎ合いを中心に語られているのですが、その象徴的なところが両国の対ミャンマー政策に端的に表れているという意外な指摘をされています。

 

 そんな中でこの本が出版された時点では菅氏が首相だったワケですが、菅氏が外交が不得手だと自覚しているからか、かなり外務省任せとなっている部分もあって、かなりうまく米中の間を立ち回っていると評価されており、あくまでもアメリカとの同盟関係が基軸になってはいるものの、緩衝材というか、仲介者というか、どちらにも何らかの話ができるという立場を築きつつあるようで、しかもロシアなどに対してもそれなりの対話ができる状況ができつつあるようで、珍しくバランスの取れた外交を展開していると評価されているようです。

 

 この本が出版されたのが2021年7月ということで、曲がりなりにも自民党政権が揺らぎないモノとされていた時期だったのですが、今後政権の基盤がアヤシくなる中で、こういったバランサー的な位置づけを維持できるのかどうかは見ものと言えるかもしれません。