死の壁/養老孟司

 

 

 大ベストセラーである『バカの壁』の続編なんですが、一冊「死」にまつわる様々なトピックで埋め尽くされています。

 

 『バカの壁』で、知性の「壁」となるのは”無関心”が最たるものだということを指摘されていましたが、そういう無関心の最たるものが「死」であると指摘されています。

 

 無関心というよりも、古事記日本書紀伊邪那岐命伊邪那美命の死後に、死後の世界である黄泉の国に伊邪那美命を追いかけて行った際に腐乱した姿だったことでもうかがえるように、死というのを、ある意味避けるべきものだとする風潮が日本にはあり、だからこそ、敢えて「死」というものへの関心を控えるという空気があるようです。

 

 そんな中で解剖学者である養老先生が死生観を語られるのですが、「死」というモノへの穢れという意識もあって、如何にして生と死に厳然たる線を引くかということがかなり大きな問題だったようです。

 

 基本的には「生」に戻ることが無くなった状態が「死」だったワケですが、医療の進化の状況によってはその判断が難しい時期があったということもあって、なかなか身内の「死」を認められない人もいたということです。

 

 さらにはこの本が出版される前後では、逆に医療が発展しすぎたが故に「脳死」の問題が発生し、よりその線引きが難しくなる事態となってしまったようです。

 

 生死を区別することの是非はともかくとして、そういう日本人の伝統的な死生観をキチンと受け止めた上で、周囲の人の生死を捉えることが、より自分や周りの人の「生」を尊重することにつながるというのはナットクできるところで、時にはそういうことに思いを致すことも有意義なことなのかも知れないと感じさせられました。