鉄道無常/酒井順子

 

 

 「鉄子」として知られる『負け犬の遠吠え』の酒井順子さんが敬愛する宮脇俊三さんと、宮脇さんが敬愛していた内田百閒さんの鉄道紀行について語られた本です。

 

 元々酒井さんは、ごく近くにひとりで電車で出かけるのも億劫だったということなのですが、お父様が買ってこられた宮脇俊三さんの『時刻表2万キロ』を読んで興味をそそられたことがキッカケだということで、宮脇さんの著書を見てその足跡をなぞったりした結果、リッパに「乗り鉄」となられて、その後旅行誌『旅』の企画で憧れの宮脇さんとの汽車旅同行まで果たされます。

 

 古くは『土佐日記』などにみられるように紀行文というのは古くから文学の1ジャンルだったのですが、鉄道にフォーカスした紀行文というのは内田百閒さんの『阿房列車』から始まったようで、その冒頭で「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行ってこようと思う」とされていて、大阪に行くのが目的ではなく、あくまでも鉄道に乗るために旅をするという「乗り鉄」の本質を語られていて、宮脇さんも内田さんに励まされて大きな影響を受けたようです。

 

 内田さんも宮脇さんも戦時中の「不急不要の旅行は止めましょう!」と言われていた時期にも秘かに汽車旅を続けた記録について多く紹介されていて、その熱量を紹介されています。

 

 「鉄子」としての酒井さんもお二方に受けた影響も語られているのですが、女性の「鉄」として、お二方というか男性の「鉄」との違いにも触れられているのが印象的で、宮脇さんが取り組まれたように国鉄の全線に乗ろうとか、切符や模型を取集するとか、どっか「所有」を志向しているのに対し、女性は「関係」を志向されると言われるように、酒井さん自身はただ鉄道に揺られているだけで心地よいと感じられているとのことです。

 

 まあ、「鉄」以外の方にほとんど刺さることはないと思われる本ですが、興味のない人から見ればバカバカしいと思えることに没頭する様子を温かく見守っていただければ…