「自分」の壁/養老孟司

 

 

 養老先生の『壁』シリーズですが、最早『バカの壁』のような確固たるコンセプトを貫かれているというワケではなく、どっちかというと「自分」というキーワードを手掛かりにしたエッセイ的な印象も受けますが、何せ書き手が養老先生だけに、ただ単に編集者が何匹目かのドジョウを狙ったモノと侮るワケにも行かなそうですが…

 

 この本が出版されたのが2014年ということで、既にこの頃には若年層を中心に「自分探し」が取り沙汰されていて、一部には否定的に見る向きもあるようなのですが、そういう考え方というのは、昨日紹介した『日本の大問題』で触れられていた西欧的な合理的思考みたいなモノの影響を受けている部分があるということらしく、養老先生は「自分」というのはあくまでもその時点での「現在位置の矢印」に過ぎないとおっしゃっておられて、周囲を取り巻く状況やその時点が考え方が変われば変化するのは当たり前で、そういう心の動きすらも「自分」を構成する重要な要素であるようです。

 

 まあ「自分」に直接関係のあるトピックは6割くらいで、あまり関係の深くなさそうな内容の著述もあるのですが、それはそれで含蓄があってムシできないところがまたご愛敬ですが、本編の最後に「なにかにぶつかり、迷い、挑戦し、失敗し、ということを繰り返すことのなります。しかし、そうやって自分で育ててきた感覚のことを「自信」というのです。」とおっしゃっておられますが、そういう積み重ねが「自分」を形成するということなのでしょうね…