無敵の読解力/池上彰、佐藤優

 

 

 すっかり名コンビとして定着した池上彰さんと佐藤優さんの対談本ですが、今回は様々な書籍から昨今の世相を読み解くといったカタチを取られています。

 

 コンビ”結成”当初は、池上さんが”知の怪人”佐藤さんの博覧強記に圧倒されている雰囲気がありましたが、最近の著作ではお二方のポジショニングが安定してきており、ややもすると難解な方向へ行きがちな佐藤さんの論説を、あまりそういう方向に馴染みのない読者を取り残さないようにするといった、本来の池上さんならではの立ち位置をこのコンビの中でも見出したように見受けられます。

 

 この本では、コロナ禍で東京オリンピックの開催に至らざるを得なかった日本人特有のメンタリティや、政治家の読書傾向に見る指導層の反知性主義の蔓延、米中戦争の危機などといった問題を過去の著作から読み解かれます。

 

 印象的だったのが東京オリンピックを取り巻く事情で、国難とも言えるコロナ禍の中でも開催を強行した事情について、昭和期の戦争拡大の様相との類似を日本軍の失敗の過程を分析した『組織の不条理』や『失敗の本質』といった今や古典とも言える書籍から語られていて、その過程をインパール作戦ガダルカナル島での戦闘になぞらえておられるところに、今後も同様の”失敗”をしないかと、戦慄を覚えます。

 

 さらには政治家の反知性主義的な風潮について、政治家の読書傾向を紹介した早野透さんの『政治家の本棚』を通して紹介されているのですが、少なくない政治家が司馬遼太郎池波正太郎といった歴史小説を愛読書として紹介されていて、自身の政治家としての素養を充実させようとするような姿勢が見られず、娯楽としての読書の域を出ていないところをお二方が嘆かれていて、博士や修士の学位を持ち、豊かな教養を背景とする諸外国の指導者層と引き比べて、こんなんで大丈夫なのか!?という不安を呈されています。

 

 その他、『菊と刀』など外国人がみた日本についての章も興味深く、お二方の読書を通した世相のミカタを垣間見せてくださるのですが、以前は本の読み方とか選び方と言ったノウハウ論についての著書が多かったのですが、最近はそれをどう活かすかと言った読書の実践論についての著作が目立ち、そういったところまで引き上げようという意識が顕著で、ガンバってついて行かないとなぁ、と思わされる次第です。