脳から見るミュージアム/中野信子、熊澤弘

 

 

 脳科学者の中野さんが、東京藝大で博物館学を専門とされている方とミュージアムについて語られた対談本です。

 

 中野さんは、幼少の頃からアートに興味があったということもあって、近年キュレーションについて学ぶために大学院に行かれているということもあって、この本の企画になったようです。

 

 まあ「脳から見る」というのは脳科学者である中野センセイの読者向けのアピールという面もあって、若干コジツケに近い印象はありますが、ミュージアムというのはその運営というか機能が脳の機能に似ている部分あるということに触れられていて、かなり意志とキャラが出てくるものだということで、それほど強引なコジツケでもないということなのかも知れません。

 

 最近は山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』が話題になったように欧米を中心にビジネスのフィールドからのアートへの接近が取り沙汰されていますが、それ以前に文明以前から人間というのは美への憧憬を持ち続けていたことが遺跡の発掘などからも明らかになっているようで、何らかのカタチでアートに触れることが人間の心身を充実させる一つの要素となってきたことは間違いないようです。

 

 この本ではミュージアムや博覧会の成立ちなどについても語られているのですが、ただ単に目の前の美術作品そのものをアートとして愉しむだけでも、それはそれで意義のあることなのですが、アートにはそれを愛でてきた人々の息遣いを窺うことができるという側面もあるということに触れられているのが、かなり目からウロコで、ある美術作品が歴史上の人物から愛されて所蔵されてきた来歴というのもまたアートを楽しむ上での意外に大きな要素であることを強調されています。

 

 またミュージアムや博覧会などの所蔵の考え方や企画の切り口と言ったモノに着目することがアートを見る上で大きな楽しみになりうるという視点は意外でありながらもナットクできるところであり、逆にそういう側面からアートにハマるということもアリなんじゃないかと感じたところで、ちょっとこの本をキッカケにアートの、今まで思いもしなかった側面を見せてもらったような気がして、かなり有意義なモノでした。