ブルシット・ジョブの謎/酒井隆史

 

 

 コロナ禍では、医療・介護関係者や飲食店勤務、物流関連の仕事に従事する方々などいわゆるエッセンシャルワーカーと言われる人たちが、キビシイ状況に置かれる一方、人々の生活にさしたる必要のない仕事をする人々が雇用を保証された上でリモートワークなどで安全地帯で保護されるという、一見ねじれとも思える状況があった中で『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』という本が注目されているようです。

 

 ただこの本、やたらとボリュームがあることと、アメリカ人らしくあれこれ盛り込み過ぎて話があちこち飛びまくって、全体として何を言いたいのか伝わりにくくなってしまっていることと、作者である経済人類学のデヴィッド・グレーバーさんがこの本の出版からほどなく59歳の若さで亡くなってしまったということで、翻訳を手掛けられた方がこの本のコンセプトを伝えたいということで書かれたということです。

 

 最初は人々の生活を支える上で必要な仕事だけで成り立っていたはずなのですが、資本主義経済高度化の進展に伴い、次第に周辺的な需要を満たすことも含めた自己肥大化的な部分も含めて、どんどんと膨らんできたのがブルシット・ジョブということのようです。

 

 ただ、このブルシット・ジョブの従事者は自分の仕事が、突き詰めれば社会で必要とされているモノではないということを意識的/無意識的に認識していて、それでもそういう仕事で受ける報酬がエッセンシャルワーカーと言われる人々よりも相対的に高いということもあり、多かれ少なかれ罪の意識に苛まれているということが、昨今のメンタル疾患増加にもつながっているということを示唆されているのですが、それでも生活のために仕事を続けなくてはいけないという矛盾があるようです。

 

 そんな中での解決の処方箋が意外なことにベーシックインカムだということで、導入によって本来的に必要のない仕事はどんどんと淘汰されていく一方、エッセンシャルワークは無償であっても従事しようとする人が出てくることです。

 

 この本の思想の根底にはマルクス経済学の考え方があるということで、"知の怪人”佐藤優さんが再三指摘されているように資本主義経済の行き詰まりに対して、マルクス経済学が多くの処方箋を提供できるようです。