イチローの流儀/小西慶三

 

 

 共同通信社の記者としてオリックス時代からイチロー選手を取材してこられた方によるイチロー取材の記録です。

 

 取り扱われている時期がイチロー選手のメジャー移籍~2006年が中心となっており、メジャーのシーズン最多安打記録である262安打を記録した2004年度を含めたイチロー選手の全盛期とも言える時期で、その分かなりトガッたイチロー選手の姿が浮かび上がります。

 

 イチロー選手はキャリアを通じて、自分の生活のすべてをよりよくプレーするために収れんさせて行っていたということはよく知られていますが、この本でも端々にそういった様子が紹介されており、遠征先でも決まったレストランで決まったメニューがそれぞれあったということで、その理由はできるだけ生活のブレを少なくして、環境の変化のプレーへの影響を最小限にしようとしたからだということで、その徹底ぶりが伺えます。

 

 ただ、そういったストイックな姿勢がチームでの孤立を招いた側面もあったようで、オリックスでのキャリアの終盤や、移籍当初の数年を除いたマリナーズのキャリアの大半において、弱体化したチームの中で浮いた存在となっていたことがイチロー選手のキャリアの中でかなり残念なことだったと思わされます。

 

 また、この頃のイチロー選手は苛烈なメディア対応でも知られていて、この本ではこの手の評伝では異例とも思えますが、取材してこられた著者の小西さんが当時のイチロー選手の対応を多少否定的に紹介されていますが、当時のメディアが安易にイチロー選手への取材対応をしようとするのに対し、常にプロフェッショナルとしての姿勢を保つイチロー選手としては、取材側にもプロフェッショナルとしての対応を求めたということもあって、そういう高度対応を求めるイチロー選手を敬遠したというのが、当時のイチロー選手とのメディアとの軋轢の一因だったことを紹介されています。

 

 2009年のWBCが一つの契機となり、またヤンキースへの移籍なども相まって、キャリアの晩年に向けてはメディアや周囲との関係も良好となり、愛される選手となったイチロー選手ですが、やはり能力に見合った結果をチームの一員としては十全に享受できなかったことは残念ですが、引退時のコメントにもあったように紆余曲折がありながらもシアワセなキャリアを全うできたことは祝福すべきことだと思いますし、今後もその影響力を十全に発揮していって欲しいものです。