池上彰の君と考える戦争のない未来/池上彰

 

 

 池上彰さんが10代をターゲットに書かれた戦争論です。

 

 ここ数十年はあからさまな侵攻は起こしにくい状況にはなったと思われていて、大国による大規模な軍事行動は目立たなくなっていたのですが、それでもロシアのウクライナ侵攻が起こってしまったということで、こういう本を読んでみることに一定の意義があるのではないかと思って手に取ってみました。

 

 タイトルだけ見ると戦争を防ぐためのヒントがあるのかな!?と思ってしまいがちですが、池上さんが如何に有能なジャーナリストであるとはいえ、人類が文明を得て以来2000年以上にもわたって戦争のない状態というのは絶えて久しいということで、解決策を求めるのは酷ではあるのですが、この本では産業革命以降の帝国主義的な考えかたによる侵略が頻発して以降の戦争について、発生のメカニズムを事例を追って紹介し、その原因となるところを探られています。

 

 帝国主義の進展による武力行動の拡大と、兵器の進化による戦争被害の大規模化という事態を経て、戦争法の整備や国際連盟国際連合といった国際的な平和維持の仕組みへの取り組みなど、戦争防止への取組が紹介されているワケですが、東西冷戦期の核武装などの時期を経て、一旦静かな時期を迎えますが、自尊心の拡大に伴う拡大の志向という、ある意味人間の本能的な部分に根差したところがあるが故に、なかなか根絶を目指すのは難しいようです。

 

 当然日本の日露戦争以降~太平洋戦争敗戦までのアジア侵略の歴史についても触れられていて、日本もその時期の帝国主義的な展開をしていた諸国と変わることなく、為政者のみならず、メディアも国民も含めて高まった自尊心を満たすべく、拡大志向を継続して行った挙句、国家を破滅に招くことになるということで、何とバカげたことをするもんだ、と後の世の我々は怒りを感じるのですが、そういうプライドをくすぐるような状況になったら、現代のワタクシたちも戦争という手段を取らないという自制が効くのかどうかというのは、甚だアヤシイところだと思わざるを得ません。

 

 いわゆる西欧の自由主義陣営だとされる日本にいると、ロシアのウクライナ侵攻はとんでもない蛮行だと思えますが、彼らには彼らの論理があり、やはり内的な自制の動きが無ければ防ぎえないものだと思われ、グローバリズムの進展により世界経済が緊密化した中での軍事行動によって世界経済から締め出されることのデメリットがブレーキのになり得るひとつとなる可能性があることが分かったのは今回の数少ない教訓ではありますが、戦争を不整合とするのはそういう仕組みを精緻化しようとし続けるしかないのかも知れません。