家族終了/酒井順子

 

 

 『負け犬の遠吠え』で知られる酒井さんが「家族」について語られた本です。

 

 この本は2019年に出版されたモノで、2018年に掲載されたWebメディアでの連載をまとめたモノだということですが、連載前後にお兄様が亡くなられて、酒井さんにとっての「家族」が消滅してしまったということもあって、こういうタイトルになったようで、そのことが契機になったのか、ご自身の家族のことや日本人の家族観について語られています。

 

 これまでご自身の家族について公の場で語られることは避けられていたようですが、「家族終了」を以ってそのシバリを解禁されたようで、かなりセキララにご家族のことを語られています。

 

 酒井さんのお母さまがかなり奔放な方だったようで、お母さまの「婚外恋愛」が元で家族離散の危機もあったようですが、お母さまが義母を看取らなくてはという意識で踏みとどまり、お父さまもそれを受け入れたということで、そういう不思議な「家族観」が酒井さんのその後の人生に小さくない影響を与えたことを告白されています。

 

 酒井さんご自身は普段の意識では「家族」について特別視する感覚はないということですが、ふとした瞬間におじいさまが養子に入ってまで守ろうとした家族を断絶させてしまうことに痛切の念を感じることもあるようですが、そういう感覚をご自身でも意外と感じつつも、日本人的な家族観がご自身にも息づいていることを感じられているようです。

 

 酒井さんは現在50歳代前半でワタクシと同年代に当たるので、旧来的な家族観とそこから解放されたいという感覚との同居はすごく理解できる部分があって、それ以降の年代は、どんどんとそういう旧来的な価値観から自由になって行っていると思われ、それはそれでいいことだと思うのですが、少し寂しい気もするような雰囲気をこの本で醸し出されているところに不思議な共感を感じます。