禁欲と強欲/吉本佳生、阪本俊生

 

 

 『スタバではグランデを買え!』など経済のメカニズムを身近なトピックでわかりやすく紹介する著書で一世を風靡したエコノミストの吉本佳生さんが社会学者の阪本俊生と経済のパラドキシカルな側面を対比して紹介された本です。

 

 この本の出版は2010年なのですが、コロナ禍以降クローズアップされるようになった、エッセンシャル・ジョブに従事する人ほど給料が下がっていくいう現象を紹介した『ブルシット・ジョブの謎』に通じる「有益は無価値、無益だからこそ高価値」というトピックを紹介されていたりと、その先見性に驚かされます。

 

 本のタイトルにもなっている『禁欲と強欲』ですが、後半を成す2章が欲望と消費、金融の関係を語られているのですが、こちらでも人間の根源的な欲望に関わる消費よりも、自己実現のような高次の欲求を満たす消費に関する支出の方に高い価値を見出す人々が多く、消費にもそういう意味で経済のパラドキシカルな側面が色濃く表れているというのが興味深いところです。

 

 吉本さんの著書にしては観念的な記述が多く割と難解なモノとなっていて、どちらかというと社会学者の阪本さんが主導権を握っているような趣きが強いこの本ですが、経済のパラドキシカルな側面を窺う上では重要な内容なのかも知れません。