何のために伝えるのか?/池上彰

 

 

 この本は池上さんが教鞭を取られている愛知学院大学で2021年の春学期に15回に渡って行われた「ジャーナリズム論」の講義をまとめたモノだということです。

 

 池上さんらしく、ジャーナリズムが生まれた経緯から、そもそもジャーナリズムとはどういうモノなのか、どうあるべきなのか、そして日本のジャーナリズムの問題点、新たなジャーナリズムの在りようまでをカバーされた、概観が理解できる内容となっています。

 

 特に日本のジャーナリズムについて、欧米と比較した場合の権力からの独立性について熱心に語られていて、どうしても日本の民主主義が「勝ち取った」モノではなく「与えられた」モノである側面が強いからか、民主主義を「勝ち取った」欧米諸国のメディアが権力と「闘う」姿勢を前面にしているのに比べ、むしろ権力と「共生」しているように見えるところに、本来ジャーナリズムが担うべき権力のチェック機能を十全に果たしていないことを指摘されています。

 

 その象徴的な事象として、高市早苗氏が総務大臣だったころにテレビ局の停波をちらつかせたことを挙げておられますが、欧米であればそんなことを言った日にゃあ、大臣からの更迭どころか、その政治家の政治生命の危機に値するということで、安倍政権が批判的なキャスターの降板を促したと取り沙汰されることも含めて、自民党のメディアの扱いは、おおよそ民主主義を標榜する政権のやることではないということを糾弾されています。

 

 また、ネットが担うジャーナリズムの役割の方向性について語られている内容も興味深く、確かに旧来のメディアと比較して信頼性が著しく劣るということはあるのですが、権力のチェックや真実性の追求という面では強力なツールとなりうるケースを紹介されていて、なかなか目からウロコなモノでした。

 

 いつもの池上さんらしく、プレーンな内容に見せかけながら、権力にスルドいナイフを突きつけているように見えるのが、ジャーナリストとしての矜持であり、池上さん自身の活動が権力に睨まれないのかな!?とかって思ってしまいますが、学生からもそういう質問を受けておられて、フリーランスだから大丈夫なんですよ!と笑っておられるのが印象的で、こういうジャーナリストがまだ残っていることに、ちょっとホッとする想いがした次第です。