作家との遭遇/沢木耕太郎

 

 

 『深夜特急』で知られるノンフィクション・ライターの沢木さんが山本周五郎向田邦子山口瞳といった文豪の人物像と作品について語られた本です。

 

 『深夜特急』を始めとする紀行文でしか沢木さんに作品に馴染みのない読者には意外な作品かも知れませんが、沢木さんは若き日にかなり文学に耽溺された時期があったということで、大学の卒業論文は経済学部であるにも関わらずカミュについて取り上げられたくらいだということで、深遠な作家の人物像と作品世界を紹介されます。

 

 中には、吉行淳之介さんなど沢木さんご本人と親交のあった作家も取り上げられているのですが、そういう個人的な事情は別にしたとしても、一定の割合の文学作品が作家のパーソナリティを色濃く反映していることを語られているように思えます。

 

 例えば昨年逝去された瀬戸内寂聴さんは、晩年説法で知られる穏やかなイメージがありますが若き日には奔放な私生活、作風で知られ、そういう寂聴さんの情念を、社会主義の活動かである大杉栄のパートナーで、関東大震災時の混乱の中、大杉栄とともに殺害されてしまう伊藤野枝の生涯を描いた『美は乱調なり』と重ね合わせて紹介されていいます。

 

 また、『火宅の人』で知られ、沢木さん自身が夫人のヨソさんの独白録である『檀』を執筆した檀一雄太宰治への憧憬と嫉妬相まった感情を作品に昇華させていく様子を紹介されているのも印象的です。

 

 最近、”知の怪人”佐藤優さんが小説から人間を学ぶ、ということを盛んに提唱されていますが、フィクションである小説も作家のパーソナリティの反映であり、人情の機微を学ぶのに格好の教材であることを、この本を読んでより深くナットクした次第であり、これまであまり小説を読んでこなかったことに多少反省をしています…そのうち、このブログでも人間観察の一環として、小説を取り上げることもあるかも知れません(笑)