スポーツの世界から暴力をなくす30の方法/土井香苗+杉山翔一+島沢優子

 

 つい最近も高校サッカーの強豪校でコーチによる暴力が明らかになり、かつ拙劣な隠蔽工作もあからさまとなり、部活の暴力がなくならないのですが、この本では部活における暴力を含めたパワハラとその根絶に向けた方向性について紹介された本です。

 

 日本におけるスポーツというのは、軍事教練として取り組んだのが源流の一つとされるので、どうしても暴力を含めた強圧的な指導というのが内在的に含まれてしまっていたという側面があり、今やそういう時代ではないと理解しつつも、なかなか今月できないというのが現状のようです。

 

 執筆陣の中で島沢優子さんについては以前紹介した『部活があぶない』など部活のダークサイドを紹介した著作を多く出版されていて、この本の中では特に暴力を含めたパワハラ的な指導の現状について紹介で主導的な役割を果たされています。

 

 今年になって、あまりの勝利至上主義的な指導者と保護者の弊害に鑑みて、小学校柔道の全国大会が当面開催を停止することになりましたが、数多くのスポーツでそういう側面が未だに色濃く反映されているようで、暴力を含めたパワハラ的な指導を必要悪として受け入れるどころか、どこか積極的に容認しているような空気すら感じられます。

 

 この本で紹介されている事例では、生徒に対する暴力行為で告発された指導者に対して、被害者の一部であるはずの保護者が処分の軽減の署名を集めたり、告発されるとそのコーチが辞めさせられてしまうため、告発をしようとする保護者に圧力をかけて止めさせるなど、”被害者”も含めた隠ぺい工作が繰り広げられてしまうようです。

 

 2012年に高圧的な指導を苦にして大阪府立桜宮高校のバスケ部キャプテンが自殺するという痛ましい事件をキッカケに、文科省スポーツ庁が主導で組織化に取組まれている状況を紹介されていますが、未だなかなか減って来ないということで、現在日本では競技団体によるパワハラ通報窓口がカタチばかり存在するようですが、特にトップレベルになると告発による不利益が甚大なモノになることもあって、なかなかパワハラ防止の有効な対策にはならないようです。

 

 この本では執筆陣の一人である日本スポーツ仲裁機構の専門員としても活躍されている杉山翔一さんが、欧米諸国で始まっているセーフガード担当者という第三者機関を整備することを提唱されていて、教師や保護者にも相談/解決できないパワハラの駆け込み寺的な窓口の整備が解決の一端となることを期待されています。

 

 確かに勝利というのはスポーツをする中で大きな醍醐味ではあるのですが、トライアル&エラーによる人格面も含めた成長やチームメイトとの協働、負けた悔しさを乗り越えるなど、大きな意義のあることがそれ以外にも多く、キビシイ指導で委縮したり、ドロップアウトしたりするのはモッタイないことですし、むしろノビノビと取り組んだ方が結果も出るんじゃないかと思うので、スポーツを取り巻く環境がオープンで楽しめるモノとなればいいな、と強く思います。