いま中国人は中国をこう見る/中島恵

 

 

 中国人のナマの意見を紹介する一連の著作で知られる中島さんの最新作は、これまで『中国人エリートは日本人をこう見る』など中国人が日本をどう見ているのか、という観点の著書が多かったのですが、今回は中国人が自国をどう見ているのか、ということをテーマに取った著作です。

 

 この本は2022年3月の出版なので、最近の上海のロックダウンについてはカバーされていませんが、ゼロコロナ政策の成功を受けて政府の監視がより厳しさを増しているようで、これまでの中島さんの著作では、多くは氏名、少なくともインタビューをする人のプロフィールみたいなものは紹介されていたのですが、政府の抑圧を恐れる人が多いからか、一切個人が特定される恐れのある情報は伏せられています。

 

 だからと言って中国人がそういう抑圧に対して不満をためているのかと言えば、必ずしもそうとは言えないようで、ある程度コロナの制圧にも成果を収めていることと、経済的に一定の繁栄を継続していることもあって、ある程度の自由の制限は仕方がないと思っているというのが正直なようで、かつ違反した場合の罰則の苛烈さもあり、政府の意向に従っている限り、ある程度恵まれた生活が享受できるということもあって、ある程度ナットクしているというのが正直なところのようです。

 

 アメリカを始めとする日本を含めた西側諸国に対しては、中国について人権抑圧とか情報統制とか言われることが気に障るらしく、政府の情報遮断はあるモノの、海外在住の知人やVPNを通じて、海外からの情報はかなり入手しており、政府の統制についてもそれなりに冷静な目で見ているということのようです。

 

 またコロナ禍を経て、愛国心習近平の個人崇拝を掻き立てる政策も顕著になっているようで、それにつれてアメリカを軽視するような向きもあるようですが、そういうのって数年前の中国人の爆買いの時も思ったのですが、30年ほど前の『Japan as No.1』っていって増長していた日本人を思い起こします。

 

 ただ、そういう単純な自尊心を抱く人はあまり外国との接点のない、どちらかというと下層階級に当たる人に多いようで、エリート層は未だ日本の文化面についての憧憬が継続しているということで、しかも富裕になるにつれホンモノ志向が高まっているということで、日本の”再開国”を今か今かと待ちわびている向きもあるようです。

 

 西側諸国では、中国での人権意識の高まりを期待する向きもあるようですが、今のところ現状の繫栄を壊してまで人権の向上を望む人は少ないようですが、上海でのロックダウンのように極端な政策に走ると、何かの拍子にそういう部分に火がつかないとも限らないという側面もあり、必ずしもそういう見方って西側の希望的観測だけではなさそうなところもあり、共産党政権は見た目ほど盤石ではないのかも知れません。