ムスコ物語/ヤマザキマリ

 

 

 『仕事にしばられない生き方』『国境のない生き方』などご自身の半生を様々な切り口で執筆されたり、お母さまの半生を紹介する『ヴィオラ母さん』も出版されてきたヤマザキマリさんですが、今回はムスコさんの生い立ちについて紹介された本です。

 

 ヤマザキさんはイタリア在住時にイタリア人の詩人のパートナーとの間にムスコさんを授かったそうなのですが、妊娠の時点で二人での生活もままならない状況で産むかどうかを迷われたこともあったということですが、ハッキリと妊娠を認識したキューバで背中を押されたこともあって、生活力の無いパートナーとの別れを決意し、出産後日本の母のもとにムスコさんを連れて帰ったということです。

 

 その後もイタリアを再訪したり、再婚のためシリアに赴いたり、再婚後もポルトガルアメリカなど世界中を転々とされる際にもムスコさんを連れ歩いたということで、ムスコさんも類稀なる順応性を発揮し、行く先々で馴染んで行ったということで、母親同様のグローバルさと自立したパーソナリティを確立して行ったようです。

 

 ただ、あとがきとしてムスコさん自身の手記が寄せられていて、初めて本格的に海外に移住することになったシリア行きを告げられた時の心境を思い返されて、内心かなりの葛藤があったことを告白されています。

 

 その後も、この母に何を言っても仕方がないということで、内心の葛藤を抑えて受け入れてきたということですが、今となってはそういう境遇を与えてくれたことを感謝しているということで、母親に振り回されながらも充実した人生を自身で手に入れて行ったところなどは、意図してか無意識かのか、ヤマザキさん自身と同じことをムスコさんにしているところが興味深い所です。

 

 なかなかここまでの環境を与えることは難しいとは思いますが、多少は子供を振り回すのも必ずしも悪いことじゃないのかも知れないと、ちょっと思わせるモノでした。