香港バリケード/遠藤誉

 

 

 中国情勢への造詣が深い遠藤誉さんが2014年の香港における、いわゆる雨傘革命についてまとめられたドキュメンタリーです。

 

 2019年にも学生運動が長期化し、かなり徹底的に抑え込みを図った中国政府ですが、その遠因として、この雨傘革命における弾圧がある程度中途半端に終わってしまい、大学生を中心とした若年層に民主化に向けた意欲が燻ぶったことへの反省があったのかも知れません。

 

 この本では、アヘン戦争の敗北による香港割譲から2007年の「一国二制度」導入による中国返還などの経緯を語られた上で、雨傘革命のキッカケとなった返還時の約束である「一国二制度」を形骸化させる選挙制度の発表を語られます。

 

 その後の2019年の運動でも主要な役割を果たすことになる黄之峰など積極的にデモに関わる人や、デモの趣旨には賛同しながらある程度距離を置いて眺める人、「一国二制度」の形骸化を受けて国外脱出を検討する人たちなど様々な立場の人への取材で構成されていますが、多くの人々が2019年のデモの際の弾圧を見通しているように思え、かなりの危機感を以って情勢を見ていたことは共通しています。

 

 それ以前は、割と香港人というのはドライというか、冷めたモノの見方をするという特徴があったということなのですが、やはり香港のアイデンティティを根本から覆す決定にかなりの動揺があったということで、激しい行動につながったようです。

 

 最早香港が、彼らの思い描いたような民主的な体制を取り戻すことは覚束ない状況となってしまいましたが、ただこのまま何事もなく唯々諾々と中国共産党の思うままになるとも思えないというのも正直なところですが…