なぜ日本語はなくなってはいけないのか/齋藤孝

 

 

 

 『声に出したい日本語』で世に知られるようになった齋藤センセイのいわばライフワークとも言える日本語の啓蒙活動の一環の一冊です。

 

 「日本語がなくなる」というのも、ちょっと極端な危機意識である気がしますが、昨今のウクライナ侵攻によりロシアに制圧された地域ではロシア語の教育を開始したといいますし、かつて日本は朝鮮や台湾に日本語を強いたりしたように、征服された地域が自分のコトバを失ってしまう可能性があり、実際に日本も太平洋戦争の敗戦後、占領したGHQはかなり現実的な選択肢として英語公用化を検討していたということです。

 

 ごく最近の可能性として日本が軍事的に征服される可能性はそれほど高くはないかもしれませんが、グローバル化の流れの中で、経済的、文化的な征服というモノは着実に進んでおり、日本人を日本人らたしめて来た精神文化のバックグラウンドとも言うべき日本語は徐々に失われつつあり、そういう意味で危機感をあらわにしておられます。

 

 特に昨今の日本人は圧倒的に読書量が不足しており、ある程度の読書量があれば触れられるであろう、古来からの日本語表現というモノを知らないまま成長してしまうリスクが高いようで、そういう危機感から齋藤センセイは、小さい子供に伝統的な日本語に慣れ親しんでもらおうとEテレの『にほんごであそぼ』の監修を手掛けられているということです。

 

 確かにグローバル化の中で英語を習得するとベンリかも知れませんが、ただ自国の文化のバックグラウンドのない英語を話せるだけの人は、グローバルなフィールドにおいては軽く見られてしまうだけで、むしろ英語を習得するよりも、豊潤な日本語の文化を血肉化しておくことの方が、尊敬を受ける可能性は高いはずです。

 

 そんな中で、古文だったり、方言だったりと多種多様な日本語の美しさを紹介されていて、モチロン他の言語にも固有の美質というモノがあるでしょうし、日本人である我々がキチンとその美質を外国の人にも自慢できるようにしておいた方がいいかも知れない…と思わせる本でした。