幕末武士の京都グルメ日記/山村竜也

 

 

 幕臣の子息で部屋住みの身ながら、上洛する徳川十四代将軍家茂の護衛として京都に赴いた若き武士の日記を紐解いて、当時のグルメ状況を紹介しようという本です。

 

 まだ家督を継いでいない身軽な立場ということもあるのかもしれないのですが、家茂の上洛の頃というと相当時代も沸騰してきている時期にも関わらず、部屋住みとは言え幕臣の立場でありながら4日に1度のお役目の日以外は、自身の剣術修行の道場通い以外はあちこちに物見遊山に出かけて、うなぎだの汁粉だのかなりノホホンとした生活を送っていることにかなり驚きますが、実際に大多数の人にとっては幕末の動乱と言われる時期もそういう感じだったのかも知れません。

 

 実際に幕末の動乱を感じさせるのは、家茂が江戸に帰った後、一旦お役御免となった後、池田屋騒動の勃発で一旦呼び戻されるくらいで、ほとんど動乱の匂いを感じることはありません。

 

 ただ、当時の食生活や物価の動静などがうかがい知れる、かなり貴重な内容で、歴史関係の書籍を紹介する際にワタクシが再三申し上げている「生きた歴史」をアリアリと感じさせてコーフンさせられます。

 

 ただ、この本で紹介する日記ではノホホンとしていた主人公も数年後には時代の波に翻弄され、戊辰戦争の激闘に身を投じ五稜郭の戦いで短い生涯を閉じることになるという後日談との落差に愕然としますが、そういう時代の波というのは恐ろしいモノだと無常を感じざるを得ません。