曾国藩/岡本隆司

 

 

 太平天国の乱を平定したことで知られる清朝末期の重臣の波乱の生涯を追った本で、そういった状況から現代中国の行く末を占おうという意図もあるようです。

 

 曾国藩は湖南と言われる地域の出身で、地域でも名だたる秀才だったということで、官僚の任官試験である科挙を優秀な成績で合格して順調に要職を歴任して行ったということなのですが、世界史上最悪の内戦とも評される太平天国の乱の鎮圧を命じられたところから運命が大きく転換して行きます。

 

 文官でありながら反乱軍鎮圧の総指揮を命じられるところに、日本人の我々からすると意外な気がしますが、アヘン戦争の指揮を執った林則徐や、日清戦争の指揮を執った曾国藩の弟子である李鴻章も同様の立場だったようで、少なくとも清朝においてはフツーのことだったようです。

 

 しかも、鎮圧の部隊がある意味自身の出身地の自前だったということもかなり意外で、並行してアロー戦争を戦う中、かなり自転車操業的な対応を強いられているところもかなり意外に感じます。

 

 特に軍事的な訓練を受けてきたワケではなさそうで、いきなり清軍の指揮を任されて当初は連戦連敗を喫し、責任を取って自決するという決意を何度もしたものの押しとどめられ、次第に体制も経験も積んで戦況も好転して行きますが、そうなると却ってあらぬ妬みや嫉みを生んで足を引っ張られるなど、官僚制あるあるなのか、清朝の末期症状なのか、かなりドロドロした内外の敵との戦いを経て、1870年代の鎮圧につながり、曾国藩はカリスマとして持ち上げられることになります。

 

 ただ、かなりカチコチの堅物だったらしく、カリスマ的なイメージとはかけ離れていたことを指摘されていて、かなり見る人によって評価が異なっていて、毀誉褒貶の落差の激しさの要因ともなるようです。

 

 この後、日清戦争などを経て清朝の滅亡に至るワケですが、この時点ですでにかなり政権内の腐敗を窺わせ、こういった有能な官僚を得てもなお、滅亡に至らざるを得なかった運命をうかがわせるところが残念なところです。