遣唐使 阿倍仲麻呂の夢/上野誠

 

 

 遣唐使として唐に赴き、玄宗皇帝に重用され、ついに帰国がならなかった阿倍仲麻呂の事蹟を追った本です。

 

 実は阿倍仲麻呂については未だ分からないことがおおいということなのですが、その生涯を詳らかにしようと思うと、天平時代の文献や中国の文献、しかも詩歌の読解のスキルも必要だということで、かなり広範な能力が必要なことが、その解明の壁となっていることを指摘されています。

 

 若くして遣唐使として唐の派遣され、唐での経歴を分析するとどうやら当時最難関とされた官僚登用試験である科挙に優秀な成績で合格したようで、最終的には当時の玄宗皇帝に近侍するほどの地位にまで上り詰めたということなのですが、そういったことが可能だったのが、仲麻呂自身の能力もさることながら、仲麻呂の出自や当時の日本における教育レベルの意外な程の高さが作用しているということです。

 

 その後も、陰陽師安倍晴明や元首相安倍晋三を輩出したとされる安倍家の出身だということで、若干17歳で遣唐使に派遣されたことでもわかるように、安倍家自体がかなりの地位にあり、当時の唐で重視される宮廷での作法や詩歌作成の能力をかなりの精度で身につけていたことが重用につながったという側面があるようです。

 

 また日本一有名な短歌とも評される百人一首の一句「天の原振りさけ見れば春日なる三笠の山にいでし氏月かも」についても触れられていて、基本的には漢詩しか読まないはずの仲麻呂がこの一句だけ和歌が残っているとされるのはなぜ!?みたいなことにも触れられていて、興味深い所です。

 

 個人的には歴史上、天平時代が一番好きで遣唐使関連のトピックには非常にそそられ、特に仲麻呂百人一首の詩に魅かれた挙句、かつての長安城があった現在の西安仲麻呂の歌碑を見に行ったくらいなので、この本はかなりワクワクしながら楽しませていただきました!