李鴻章/岡本隆司

 

 

 先日『曾国藩』を紹介した岡本さんが10年ほど前に既に曾国藩のお弟子さんである李鴻章を取り上げた本を出版されていたと知って手に取ってみました。

 

 李鴻章というと日本人にとっては日清戦争の講和会議である下関条約を締結した会議の全権代表を務めていたことで知られていると思うのですが、末期症状を呈する清朝において、『曾国藩』でも触れられていたように太平天国の乱等の内乱の平定や、アロー戦争の敗戦処理を始めとする外交、特に日清戦争に至るまで日本とかなりビミョーなせめぎ合いをする中で中心的な役割を果たすなど八面六臂の活躍をされていたようです。

 

 師匠である曾国藩が生真面目な官僚気質だったのと比べて、山っ気や野心もありドラらかというと政治家的な資質を感じさせる李鴻章清朝国難と言える時期に救世主ともなりうる人材だったことを紹介されています。

 

 西欧諸国の間では李鴻章を「東洋のビスマルク」とドイツの鉄血宰相に擬する向きもあるにふさわしい手腕を振るうワケですが、アヘン戦争、アロー戦争に連敗するなど西欧諸国の圧力が増し、さらには日本の勃興の圧力も受けるなど、世界史的な流れの中、如何に李鴻章の才覚をもってしても清朝の退潮を押しとどめることは難しかったようで、李鴻章の生涯を追ったこの本ではスコープ外となりますが、李鴻章の死後10年で清朝は滅亡の憂き目に遭うことになります。

 

 清朝末期というと、諸外国の圧迫と腐敗に翻弄される姿をイメージしがちですが、こういう憂国の士がいたことも記憶にとどめておくべきなのかも知れません。