地政学入門/佐藤優

 

 

 ロシアのウクライナ侵攻や中国の台湾侵攻の可能性が高まっていることなど、世界がキナ臭くなっていることもあって、地政学への関心が高まっているということで、”知の怪人”佐藤優さんが語る「地政学入門」ということです。

 

 この本は2015年に晶文社が主催した「現代の地政学」という講座の講義録をまとめたモノだということなのですが、通例佐藤さんが行う講義って、将来のエリート相手とか、選りすぐられた聴講生であることが多いのですが、今回はそれに比べて割と聴講生の質にバラつきがあるように見受けられ、地政学の理論的な枠組みというよりも、世界情勢を地政学的観点から語るといった側面が強くなっています。

 

 ただ、昨今多く出版されている地政学に関する書籍の大半が「政」に寄りすぎていて、「地」はどこ?といった具合になりがちだということですが、元々地政学というのは地理+政治ということに留まらず、民俗学や宗教学など人間の心理も含めた総合的な学問だということで、そういう多面性を意識させるようなモノとなっているように思えます。

 

 前々から不思議に思っていたのですが、これだけ航空機が世界中を飛び回っているのに、地政学の基本と言われる「海や川は人間を接近させるが、山脈は人間を分離させる」という概念が未だ生き続けているのかということについて、地政学というとどうしても戦争と絡めて考えてしまい勝ちながら、人間の生活も含めて総合的に考えれば割とナットク感のあるところです。

 

 また、以前はそれなりに良い状況だった中国の関係が急速に悪化したかということについて、元々大陸国家だった中国が近年南沙諸島への進出など海洋国家的な志向を強めたことで、海洋国家たる日本と利害が対立し始めたからだということで、これまでもソ連~ロシア、イギリス、アメリカとの関係を見ても、日本は海洋国家とは敵対するリスクが高く、それだけに外交的な配慮が必要だという指摘にナットクです。

 

 やはり地政学は佐藤さんのような人が紐解くと、そういった世界情勢のメカニズムが詳らかになるようで、かなり書き手を選ぶ分野でもあるようです…(笑)