最後の講義完全版 これからの時代を生きるあなたへ/上野千鶴子

 

 

 以前、NHKの『最後の授業』という番組を書籍化した出口治明さんの『最後の講義完全版 適応力 新時代を生き抜く術』をこのブログでも取り上げましたが、その『最後の授業』から『おひとりさまの老後』などの著書で知られるジェンダー論の草分けとも言える上野千鶴子さんの講義が書籍化されたモノを紹介します。

 

 完全に偏見ということは認めますが、ジェンダー論というと声高に女性の権利向上を叫ぶことに終始するという、どちらかと言うとロジックよりも感情論的なモノがクローズアップされるという印象があって、おっしゃっていることには賛同できても、どこか心底からナットクできないモノがあったのですが、この本で語られるジェンダー論はかなりロジカルで、女性の地位向上というのはそういうメカニズムで進んできていたり、未だ阻まれている部分があるんだということを、かなり明確に理解することができます。

 

 産業革命以降、経済の進展が社会の主要な関心事項だったこともあって、経済学が「社会科学の王」ともいえる存在だったのですが、経済学の分析対象というのはあくまでも「モノの生産」に関するモノであって、その前提となる「イノチの再生産」というのは所与のモノであり、分析の対象外とされていて、出産から子育て、老人の介護といった「イノチの再生産」に纏わる部分を女性が担わされて、経済的な価値評価の埒外とされていたということです。

 

 ただ、社会経済の高度化により従来外部変数とされていた「イノチの再生産」の部分が少子化などにより、十分に労働力が供給されないということから、経済学に内部化して研究対象とせざるを得なくなり、女性が担っていたそういう部分の価値が「見えるか化」され、評価されつつあるということです。

 

 例えば、介護保険は従来主婦が担っていたであろう介護を公的サービスとして提供するための仕組みであり、家事の延長線上として行っていたモノを社会制度とすることで「内部化」されたモノだということですが、ただその「内部化」の方法論が北法などと比べると家族に依存する傾向が強いことから、どうしてもそのことが出生率の足を引っ張ることが否めないということです。

 

 とは言いながら、上野先生によると進化したもんだなぁ、というところもあり、まだまだ「外側」にある妊活や子育てなんかも「内部化」が進めば、よりリベラルな社会が実現するんじゃないかと思うと、少しでも早く着実にそちらに進んで行って欲しいモノです。

 

 従来から社会学って何の役に立っているんだろう…というギモンが払拭できなかったのですが、実はジェンダー論とはいいながら上野先生も社会学者であり、こういう女性の地位向上を経済の拡大につながるといったような意義の研究もあるんだなぁ、ということが印象的でした。

 

 ということで、近未来への希望が持てる著作を今年最後の記事とさせていただいて、今年もこのブログをご覧くださってありがとうございました。

 

 コロナ禍当初の混乱で連続当行が途切れて以来、あまり連続当行にはこだわらないでおこうと思うのですが、根っからの貧乏症で今年も何とか毎日投稿できました…来年も一応こだわらないといいつつ、できるだけガンバっていきますので、よろしくお願いします。