日本社会のしくみ/小熊英二

 

 

 本屋で面出ししてあったので手に取ってみたら600ページ近くにも及ぶ大著…一瞬怯んだんですが、意を決して読んでみました。

 

 『日本社会のしくみ』というなかなかに漠然と、というか、かなり捉えどころのムズカしいテーマのような気がするのですが、冒頭で「本書が対象としているのは、日本社会を規定している「慣習の束」である。これを本書では、「しくみ」と呼んでいる。」と規定されています。

 

 日本の生き方の類型として「大企業型」「地元型」「残余型」の3類型を挙げられていて、その中でも長らく日本人のステレオタイプ的なイメージとして捉えられることの多い、「大企業型」の基盤となる雇用慣行について、その形成の過程や諸外国との比較なども含めて、かなりの紙幅を割いて語られています。

 

 そもそも日本的な雇用のシステムは雇用事情研究の第一人者である濱口桂一郎氏が『ジョブ型雇用社会とは何か』で指摘されているように「メンバーシップ型」と言われる形態が特徴的だと言われますが、そういった雇用形態というのは明治維新期の官僚の雇用形態に企業が追随したモノだと指摘されています。

 

 戦後から高度経済成長期を経て、次第に「大企業型」の生き方が日本人のモデルケースのように言われていますが、それでもその割合は30%台にしか過ぎないようで、自営業に代表される「地元型」と言われる形態の方が割合としては多かったということが、ちょっと意外で驚きます。

 

 戦後、高校~大学と高等教育を受けた人が増加して、「大企業型」を志向する人が増えるワケですが、受け皿である大企業の雇用がそれほど増加したワケではないようで、概ね30%台をキープしたまま推移したようで、増加分の受け皿となったのが「残余型」といわれる形態で、いわゆる非正規雇用が代表的なモノとなっているということです。

 

 「残余型」の増加は「メンバーシップ型」雇用の制度疲労とも言うべき現象なのかも知れず、財界でも「ジョブ型」への雇用形態の転換を指向する動きが目立っていますが、長い慣習で形成されてきて、複雑に絡み合った既得権益の中でなかなか転換は難しい所だとも思えますが、徐々にそういう「慣習」を積み重ねていく中でしか転換は見込めない部分もあって、日本社会の低空飛行というのは当面続いて行くのかも知れません…