日本の伸びしろ/出口治明

 

 

 2021年1月に罹患した脳梗塞から復活されて2022年7月出版の『復活への底力』に続き、早くも旺盛な執筆活動を再開している新刊です。

 

 いろんなカタチで日本の惨状を誤魔化してきた来た安倍政権がコロナ禍の影響で終焉を迎え、経済的にも社会的にも、今やOECD諸国の中でも底辺だということが露わになった日本ですが、出口さんはそういう状況を「伸びしろ」だということで、改善すべきことが山盛りであり、それを一つずつ実行して行けば、まだまだ明るい未来を夢見ることができるとおっしゃっておられます。

 

 特に日本の生産性を向上させるための施策ということでいくつかの改善点を指摘されていますが、その中でこれまで十全に活用されていなかった女性の能力の積極的な活用でかなりの生産性の向上が見込めるということを指摘されています。

 

 ただ、どちらかというと女性に向けた施策を充実させるよりも、男性の側がこれまで女性が担っていた家事や育児の部分を請け負えるように、長時間労働を強いられる仕組みを制度的に解消していくことを提唱されています。

 

 また社会的な活力の回復のために、移民の積極的な活用を提唱されていて、これまでは日本人が嫌がるようないわゆる3Kを担うような労働者の受け入れが中心だったものを、ある程度専門的な職務を担うような人材を積極的に登用することで、治安の悪化などの社会的な不安を回避しつつ、経済的にも技術的にも日本人を刺激するような施策を想定されているようです。

 

 移民の効用について、2019年のラグビーW杯日本代表の躍進や1998年サッカーフランス代表の優勝などを例に挙げられていると共に、アメリカの長期的な繁栄やモンゴル帝国オスマン朝の繁栄など世界史的に見てもダイバーシティに寛容な社会こそが繁栄をもたらすことを指摘されていて、ご自身が学長を務められているAPUも含めて、日本の大学が積極的に留学生を受け入れられるような秋入学の推進などの施策を推進することを勧められています。

 

 さらにはご自身が車いすを使われるようになって感じられたことのようですが、障碍者のモビリティを向上させることも、社会の活性化や経済規模の拡大という意味で無視できない影響があるということを指摘されているのは、タダでは転ばない出口さんのタフネスを感じられて、ちょっと嬉しくなります。

 

 ただ、最終章で取り上げられている「伸びしろ」が「選挙」なのが、ちょっと…というところで、ちゃんと失政があれば政権交代が起こるような健全な仕組みが成り立たないといけないところなのですが、このあたりはお立場的にもあからさまに猛烈な現政権批判をするワケにも行かなさそうなので問題的だけにとどまっているのは多少残念なところではあるのですが、ちゃんとそういうところまで考えた投票行動ができるようになれば、日本人はスゴイことになるんだろうなぁ…と思いつつ、なかなかそういう図が思い浮かばないのが、残念なところではあります。

 

 今がどん底だということで、日本社会も出口さんくらいのバイタリティを以って復活できることを期待したいものです…って他人事モードじゃ、出口さんに叱られるかな!?