転身力/楠木新

 

 

 ご自身の人事部勤務の経験から執筆された『人事部は見ている。』のヒットで一躍知名度を上げた楠木さんですが、近年はリタイアをテーマにした『定年後』『定年準備』などの一連の著書を連続してスマッシュヒットさせるなど引き出しの多い楠木さんですが、今回の本もリタイアに向けた「転身」を取り上げたモノです。

 

 ご自身もうつ病の罹患後に文筆業への「転身」を徐々に進めてきて成功を収めただけあって「転身」についていは長らく多くの人に取材を積み重ねてきて、これまでも「転身」をテーマにした『「こころの定年」を乗り越えろ』などの著書もあって、楠木さんにとってはライフワークともいえるテーマなのかも知れません。

  

 冒頭に、2010年にクモ膜下出血で38歳の若さで急逝した読売ジャイアンツ木村拓也コーチが亡くなるわずか1カ月前に12球団の新入団選手に向けて行った講演について取り上げて、置かれた状況に対応できる適応力の重要性について強調されているのですが、リタイア前後、もしくはリタイア後に如何に充実した人生を送るかということを考えると、こういう考え方というのが重要だということを示唆されているように思えます。

 

 リタイアの時期に限った話ではないのかも知れませんが、「転身」を考えるにあたっての重要な要素として、

 ・実行、行動できる(フィードバックを受ける)

 ・自分を語ることができる(自分自身を客観視する)

 ・大義名分を持つ(主体的である)

ということを挙げられていますが、結局は最終章に伊能忠敬のエピソードを紹介されているように、やりたいことをそんなに多くなくてもいいからおカネに繋げるということが理想的なようで、自分が好きで、それなりの技量もあるようなことを棚卸しておいて、それをどうにかしておカネに結び付けることができないかということを、50歳代突入くらいの時期から時間をかけて考えておくことが重要なのかも知れません。