プロ野球人生の選択/二宮清純

 

 

 専業のスポーツライターの草分けとも言える存在で、今なお一線で活躍されている二宮清純さんの2003年の著書を2018年に焼き直して新書として出版されるというなかなか強引な企画の本です。

 

   高校時代甲子園を賑わすほどの大活躍をし、鳴り物入りプロ野球に入ったからと言って必ずしも大活躍するワケでもなく、逆に育成枠で滑り込みながら日本有数のバッテリーになることになるソフトバンクの千賀投手と甲斐捕手みたいな選手がいたりと、誰がどう化けるか開けてみるまで解らないということが多々あるプロ野球界の中で、如何にして大成したかということを解き明かすトピックが多くなっています。

 

 中には、落合博満選手や前田智徳選手、松井秀喜選手のように溢れる才能を十全に活かして活躍する選手もこの本で取り上げられているのですが、どちらかというと凡そプロとしての活躍は覚束なかったにもかかわらず、長きに渡り選手生活を続けた選手のトピックが興味深いモノとなっています。

 

 その中でも、昨年オリックスを日本一に導いた中嶋監督が現役時代にピッチャーが投げた球を素手で取ったというエピソードがありますが、その球を投げた星野伸之投手も取り上げられていて、Maxでも今時高校野球でもあまり速いとも思えない135km/h程度のストレートしかないにも関わらず、巧みな投球術を身につけ打者を翻弄するようになった課程を紹介されています。

 

 また、ヤクルトスワローズの黄金時代を築きつつある高津臣吾監督の現役時代についても紹介されていて、それほど成績が挙げられていなかった時期に、当時の監督だった名将野村克也さんから緩い球を投げるように勧められて、そこから投球の幅が広がり球界を代表するクローザーとしてメジャーリーグでも活躍するまでの投手となったことを紹介されています。

 

 上宮高校時代に甲子園で準優勝し類稀なる野球センスを買われてプロ入りした元木大介選手も入団当初、こんな人たちの中ではとても生き残っていけないと感じたそうで、生き残りの術を追い求めた結果が当時監督だった長嶋茂雄さんに「くせもの」と言わしめたほどの特徴的な野球スタイルであったことを指摘されています。

 

 モチロン群を抜いた才能があるに越したことは無いでしょうけど、得てしてそういう才能に恵まれた選手は、才能に溺れるといったこともアリがちで、上記の3人の選手は如何に自分に足りないモノを補うかというアタマの部分が、類稀なる選手へと押し上げたという側面があり、才能だけでは生きて行けない世界のキビシさと創意工夫の重要性を痛感させられるモノでした。