明治天皇を語る/ドナルド・キーン

 

 

 日本文学の研究者で司馬遼太郎さんとも交友があり日本文化への造詣が深いドナルド・キーンさんが明治天皇について語られた講演をまとめた本です。

 

 キーンさんは文庫本だと4巻にわたる大著『明治天皇』を書かれていて、その時の文献の研究などを踏まえた講演となっていて、どちらかというと部下である元勲たちの功績ばかりが語られがちな明治維新ですが、かなり明治天皇ご自身も立派な方だったようで、崩御された際には海外からその功績を讃える声が多く寄せられたようです。

 

 上皇様が生まれついての象徴天皇としての在り方を模索されたように、明治天皇も近代国家における君主としての在り方を模索されつつ、それに相応しい存在を自らに課しておられたようで、かなり自己規律が厳しいことが記録に残っているということです。

 

 そんな中で、礼服が破れていたこともあったようですが、決して捨てることを許さず継ぎはぎしながら使われていたようですし、明治6年に火災で皇居が焼けた際にも再建することを許さず、かなり狭いところで暮らされ、大正天皇のために作れた東宮御所を贅沢すぎると激怒し使わせなかったというエピソードもあるそうです。

 

 またかなり平和主義的な志向も強かったようで、傾倒していたといわれる西郷隆盛征韓論も許さず、日清・日露戦争もギリギリまで反対していたようで、さらには日清戦争の戦勝後も、勝ったからと言って驕り高ぶることがないようにとの訓示をされた上で、中国との友好関係を取り戻すようにとの言葉を下されたことは印象的です。

 

 その後、日本は明治天皇の意図されていた方向とは真逆の方向へと言ってしまいますが、大正天皇が病弱で指導力を発揮できなかったことは残念で、明治天皇の遺志を受けて主導権を握っていれば、日中戦争、太平洋戦争の悲劇はなかったのではないか、とすら思わされました。