28年目のハーフタイム/金子達仁

 

28年目のハーフタイム (文春文庫)

28年目のハーフタイム (文春文庫)

  • 作者:金子 達仁
  • 発売日: 1999/10/08
  • メディア: 文庫
 

 

 コロナ禍の関係で在宅勤務になったため単身赴任先から自宅に戻り、緊急事態宣言の影響で図書館から本を借りることもできなくなり、とうとう投稿ネタのバックログも底をついてしまいまして、本日からは蔵書の中で今までブログで紹介していない本の再読分を紹介しますが、それもいつまで続きますことやら…

 

 今日紹介するのは、日韓W杯前後に一世を風靡したスポーツライター金子達仁さんのデビュー作で、1996年アトランタ五輪でブラジル代表を破る“マイアミの奇跡”を成し遂げたサッカー日本代表の内幕を描いた本です。

 

 元々この本は金子さんがNumberに書かれた『断層』と『叫び』がミズノスポーツライター賞を受賞したのを受けて単行本に拡大したということで、プロトタイプである『叫び』と比べると密度が低いという評価もありますが、西野監督率いる日本代表がチームとして崩壊していく内幕を丹念に描かれています。

 

 特に、『経験というタマゴ』という章については、ストーリーのメインをなす日本代表の崩壊とは少しずれたところにあるのですが、大本のタイトルを『断層』としたことの一つの要素である、世界で戦った経験や勝利した経験の有無が、大きな違いを生み出すということで、ブラジルを破った次戦で、その後金メダルを獲得することになるナイジェリア戦において、ユースで世界と戦っていた中田選手や松田選手と、その経験のない西野監督やそれ以外の選手の意識の差が、チーム崩壊を決定づけたことの裏付けを、世界の強豪国の歩みと共に紹介されていて、これが金子さんが言いたいことだったんだなあ、と思わされます。

 

 その後、W杯への出場、3度の決勝トーナメント進出など着実な進化を遂げたサッカー日本代表ですが、今考えると、アトランタ五輪におけるチーム崩壊やアメリカW杯予選時の“ドーハの悲劇”といった“痛み”がその後の成果につながっていたんだと思うと、感慨深いところです。