ウクライナ戦争の欺瞞/馬渕睦夫

 

 

 ウクライナ大使を務められた経験もあるという元外交官の方が語られるウクライナ侵攻も含めた「戦後民主主義の欺瞞」だということです。

 

 元ウクライナ大使だということもあって、ウクライナ侵攻のことが本のタイトルとなっていますが、ウクライナ侵攻自体が主要なテーマというワケではなく、ディープステート(DS)という「ウォール街やロンドン・シティに跋扈する国際金融勢力およびそのネットワーク」が国際社会を牛耳っている状況について語ることがメインテーマようです。

 

 陰謀論的な内容が多く、この本の中でも自説が「妄言」と言われることも多々あるようですが、さもありなんと思えるような、なかなかついていきにくい言説が多々あります。

 

 個人的には日本での報道のような、侵攻したロシアが完全な「悪」でウクライナは可哀そうな被害者で絶対的な「善」だという水戸黄門的な勧善懲悪的な報道にモヤモヤするモノを感じていたので、ウクライナ国内の腐敗などの指摘で、それ程単純なモノではないということはナットクなのですが、バイデン大統領のキーウ電撃訪問(この本の中では頑なにロシア語呼称の「キエフ」を使用されていますが…)が支援終了の通告だったと言及するなど、現在も戦争および支援が続く状況についてどう言及するんだろう…と思える指摘もありますし、DSが自分たちの利益を損なうということで、トランプ前大統領の再選を阻止したなど、???と思えるような指摘が多くみられます。

 

 さらには、そういうDSの暗躍に敢然と立ち向かったとされている安倍元首相の暗殺についても、山上被告の単独犯ではなく、DSが絡んだ組織テロだと指摘されていて、ケネディ大統領の暗殺に類似のケースだと指摘されていて、どうしても読み進めるほどに「妄言」という指摘がアタマをもたげます。

 

 DSが世界中で隠然たる影響力を行使しているのは認識していますが、個々の指摘においてさすがにムリがあるだろう!?と思えるモノが多く、かなりモヤモヤする内容の本でした。

 

産業医が診る働き方改革/産業医科大学編

 

 

 この本が出版されたのは2018年なので、コロナ禍を経てのリモートワーク推進などといった「働き方改革」ではなく(ワタクシ自身もソッチを期待して手に取ったのですが…)、産業医の方が日々の業務の中で、不具合を訴える方への仕事の取組み方のちょっとした改善を促すことで、症状の改善を図って継続して働けるようにする取り組みを紹介した本です。

 

 常時50人以上の人が従事する職場には産業医を置くことが義務付けられているということですが、割と片手間的にこなせる(失礼!)のかと思いきや、職場で起きうるあらゆる疾患について通暁しておかなくてはならないだけではなく、その職場の業務も把握して、職場で発生するケガや病気について、それを予防したりするために業務の改善の指導もミッションのうちだということでかなり責任も重大だということで、地味ながらもかなり大変な仕事なんだということを痛感させられる内容となっています。

 

 昨今はメンタル疾患の罹患も多いということで、その恐れがある人へのカウンセリングをこなされたりすることもあるようですし、ケガや病気を経た人の業務への復帰に向けての支援プログラムの策定だったり、職場環境の改善といったことにも参画されることもあるようです。

 

 また、粉塵など化学物質を扱う事業所や建築業など事故のリスクがある事業所などにおいては、事故を防止するような業務プロセス改善に意見具申をするといった事例も紹介されており、単なる医師の枠にはとどまらない幅広い知見が求められるようです。

 

 産業医の方に対する見た目がかなり変わること請け合いで、企業においてもこういう活動を十分に支援するようにしてもらいたいところです。

日本料理の贅沢/神田裕行

 

 

 2010年の出版当時は元麻布にあり2022年に虎ノ門ヒルズに移転し、現時点で13年連続でミシュランの三つ星を獲得し続けているという日本料理かんだのご主人が語る日本料理の”真髄”です。

 

 神田さんは徳島出身でご両親が鮮魚店から転換して料理屋を営んでおられたということもあって、かなり早いうちから料理への興味が深かったということですが、そのフランスでの修行なども経て日本料理の奥深さに改めて目覚め、徳島の名店青柳での修行も経て、元麻布での独立に至ったということです。

 

 独立当時、相当な期待があったようで、色々な誘いもあったようですが、全18席という割と小ぶりなお店でスタートされたのですが、その理由というのがご自身が一番おいしいと思えるサイズの魚でお造りを提供できるのが18人が限界だということで、お店の規模を決められたということで、そのこだわりの強さをうかがわせます。

 

 ただそれだけ強いこだわりを持ちながらも、原理的に”教条”を押し付けるワケではなく、お酒の頼み具合を見て、アテ的な料理を中心に提供するようにするなどお客さんの様子に合わせて提供する料理を変えるなど、柔軟に対応されているということで、そういうサービスも13年連続ミシュラン三ツ星の秘訣なのでしょう。

 

 フランスでのご経験もあってかなり柔軟に食材を取り入れたり、ワインを相当な種類備えたりと、幅広いキャパを見せながら、素材をおいしく食べてもらうための調理法などについては妥協のないこだわりを見せる姿勢に凄みを感じます。

 

 にもかかわらず、割とハードルが高いと思われる日本料理を家庭でも再現できるコツも紹介されているのもうれしいところです。

 

 この本を読んでいると、何としても「かんだ」で食べたい!と思う人が多いと思うのですが、調べてみるとコースだけで49,500円、サービス料が加わって、さらにお酒を飲むと…さすがにちょっとワタクシにはムリかも…

感動のメカニズム/前野隆司

 

 

 以前、『幸せのメカニズム』を紹介した「幸福学」の提唱者前野隆司さんが、今回は「感動のメカニズム」を紐解かれます。

 

 感動の多い人生は幸せであることが多く、一定以降の年代にとって感動し続けるということは老化を遅らせるということで非常に重視されているワケですが、『幸せのメカニズム』でも幸せの要素を4つの因子に分けて分析されていたように、この本では感動の要素を「感動のSTAR分析」として、

  ・SENSE(五感で感じて感動)

  ・THINK(「知見の拡大」に感動)

  ・ACT(「体験の拡大」に感動)

  ・RELATE(「関係性の拡大」に感動)

の4つの因子に分けて分析されています。

 

 最近は企業のPR活動においても「感動」を掻き立てることが重要視されているようですが、そういう活動について様々な業界において「感動のSTAR分析」を駆使した調査をされたことを紹介されていますが、必ずしも同じ業界だからと言って同じ因子が多いというワケではなさそうで、自動車業界の分析ではトヨタの活動にSENSE、THINKの要素が多く、ホンダの活動にACT、RELATEの要素が多いというのは、企業カラーを反映しているようで興味深いところです。

 

 ただ、基本的には同じ業界のPR活動においては、同じ要素を訴求することが多いようで、マクドナルドもモスバーガーもTHINKの要素が多かったということですが、マクドナルドが差別化としてSENSEの要素を取り入れたというのが興味深いところで、差別化の要素が製品やサービスだけではなく、PR活動においても激化しており、特に昨今重視される「感動」を訴求する活動においては、「感動のSTAR分析」を駆使したプランニングがかなり有用なようです。

 

 また、分析と大仰に構えなくても、そういう要素があるだな、ということを意識しておくだけで、個人の行動においてもそういうことを意識しておくことで周りの人に感動してもらうこともできるということで、シアワセをもたらすツールとしての活用も提唱されているところが、サスガは「幸せの伝道師」といったところです。

”人疲れ”が嫌いな脳/梶本修身

 

 

 東京疲労・睡眠クリニックの院長で、脳の疲労に関する専門家である方が、脳の疲労を避けるための人付きあいの在り方を紹介された本です。

 

 疲労というと、割と身体の疲労を思い浮かべがちですが、身体そのものが疲労困憊してしまうということは、昨今ほとんどあり得ないようで、人が感じる多くの疲労は脳の疲れだということで、さらにはその脳の疲れをもたらす最大の要因が人付き合いだということです。

 

 単純にイヤな人との付き合いだけが、疲れをもたらすワケではなく、自分では親友だと思っている人との関係性も実は大いに疲労をもたらしているケースも多々あるようで、人疲れとならないためには適切な距離感があるようです。

 

 若い女性にありがちな、やたらとベタベタした関係性も、かなり疲れをもたらすようで、時には一人になることも精神衛生上、かなり重要だということです。

 

 また、あまりなじみのない人と接するのもストレスですが、そういう場合は聞き役に回って、相手の話を聞いているウチに自分のスタンスを整えるといったことも可能なようですし、自分の話を聞いてくれる人には好意を抱く傾向が強いことを利用して、よい関係性を築きやすいというメリットもあるようです。

 

 なかなか人との良い距離感というのは難しいモノだとは思いますが、その一つのヒントとしてアタマの片隅においておけば、煮詰まることが少なくなるんじゃないかと思えます。

ゼロコロナという病/藤井聡、木村盛世

 

 

 最近、SNSをフォローしていて、かなり政府に批判的な意見を連発されている藤井先生ですが、安倍内閣で内閣参与をされていたと知ってビックリ!

 

 同じく政府のコロナ政策に懐疑的な医師である木村盛世との対談です。

 

 コロナというのは、結局振り返ってみればペストなどこれまでの世界的なパンデミックを引き起こした感染症と比べると致死率はかなり低かったことでもわかるように、それほどの毒性があったワケではなさそうなのですが、日本における極端な恐れの空気が、過度な「自粛」を招いたということです。

 

 それを招いたのが危機感を煽るメディアと、責任を取ることから逃げる政府だということで、お二方もコロナ関連で出演を求められたテレビ朝日の『モーニングショー』で、コロナの恐怖を煽るコメントを求められて断った結果、直前になって出演依頼を取り下げられたことを紹介されています。

 

 結局、その頃はコロナの恐怖を煽ることが視聴率につながったということで、カネ儲けのためにコロナの恐怖を煽り続けた挙句、経済をボロボロにしてしまったワケですが、この本で触れられているワケではないのですが、最近の放送で、コロナ禍で自宅に引きこもった老齢者がフレイルになったことを取り上げている厚顔には呆れる想いがします。

 

 さらには、政府としては生命を守るとさえ言っていれば責任を果たせると思っていたのか、本来であれば経済とのバランスの判断をすべきところを、コロナの恐怖の空気のまま、ロックダウンに近い政策をとってしまうということになったようです。

 

 本来であれば政策決定の意見の中には公衆衛生学という感染症を社会全体から見る専門家の意見を仰ぐべきだったを、感染症そのものの専門家にばかり意見を求めた結果、そのリスクを避ける意見ばかりに耳を傾けることになった結果、社会生活をないがしろにしたという側面もあるようです。

 

 ただ、そういった状況を招いた原因の一つに、日本人の死生観の「幼稚化」という側面もあるようで、多くの重症患者が押し寄せた場合に一定のトリアージが取り入れられることが合理的だと思うのですが、80歳代以降の高齢者と20歳代を同じ土俵て扱うという不合理をヘーキでしてしまうところなどあきれるばかりで、ただただ死を恐れるというか、死をタブー視するといった状況が招いたところもあるようで、結局コロナ禍は日本人のレベルにふさわしい結果をもたらしたといえるのかもしれません…

栗山ノート/栗山英樹

 

 

 以前、”旬”だったといこともあって、ついつい『栗山ノート2』から紹介してしまいましたが、ようやく本編を紹介することができました。

 

 ”2”の方がWBC編ということなのですが、こちらは日本ハムファイターズの監督時代のことを語られていて、元々病気が原因で早くに引退したこともあり、選手時代の実績がそれほどあるワケではない自身にコンプレックスもあったということを告白されていて、それでも自分より実績のある選手たちを指導していかなくてはならないということで、『四書五経』や『論語』といった古典などからそのヒントとなることを見出していったことを紹介していかれます。

 

 やはりプロ野球チームのトップたる監督というのは、最終孤独なもので、最後には自分が決めなくてはいけない(時々、コーチにある部分を丸投げする人もいるらしいですが…)ということで、周辺のコーチのプロフェッショナルな部分を最大限尊重しつつも、最終判断を責任をもってとるということを徹底されているということで信頼され、当時は育成のチームとして大谷翔平選手を始めとする名選手を次々と輩出して10年の長きにわたり監督を務められたことにつながったということです。

 

 さらには、古典からの教訓を活かすにしても、何か特定のモノに頼るのではなく、その場その場で最もふさわしいモノを自分の中の多くの引き出しの中から探してくると言った、アプローチでその思索のキビシさみたいなものも感じさせます。

 

 大谷選手を高校時代に指導した佐々木洋監督も、選手たちに目標の曼陀羅チャートを書かせたことで知られるように、思索を重視された方だったようですが、大谷選手は栗山さんの下でプロ野球の選手の第一歩を踏み出したことから、あれだけの実績を出すことになる基礎を築けたのだろうことを思うと、奇跡の出会いであったことが伺える本だと思えます。