ろうそくを吹き消す瞬間/松井玲奈

 

 

 

 最早、元SKEの…ということが憚られるほど幅広い活動を展開されている松井玲奈さんによるエッセイ集です。

 

 ワタクシは初めて松井さんの著書を手に取るのですが、エッセイ集だけでも3作目で、小説も執筆されているということで、リッパに文筆家でもあるようです。

 

 このエッセイ集では、結構松井さんの普段の仕事を始めとする生活の中における心中の葛藤がセキララに語られているのですが、モノの書き方を見ていると本を読んできた人だなぁ、という痕跡がそこかしこに感じられます。

 

 収録されているエッセイの中に、「決意表明」と題された一説があるのですが、よくよく本を読んできただけに、最初に執筆を依頼された際に、自ら書くことへの逡巡があったということですが、それでも求められて執筆することの意義を感じて引き受けられ、その後何冊もの著書を執筆されることになるワケですが、マジメな性格らしく、またこれまで読んできた本の内容がチラつくのか、ああでもないこうでもないと書きながら悩む姿も明かされていて、そういった難産の末に紡がれた文章故に、あまり松井さんを知らないワタクシにとっても、どこか共感を覚える部分があります。

 

 子どもの頃に心酔したという「ハリーポッター」の舞台への出演が叶うという一説もアリ、松井さんの活動が大きな一つの円になっているかのようで、今後も活動を応援したいところです。

関西奠都論/松沢成文

 

 

 ちなみに「奠都」というのは、よく知られる「遷都」と同じく首都を定めるという意味ですが、どちらかというと「遷都」と比べると仮置き的な意味合いが強いモノで、名実ともに日本の首都と思える東京ですが、正式に「遷都」された実績はないということをご存じでしたか!?

 

 まあ、そんなことはどうでもいいのですが、関西に皇居を移すという日本維新の会の議員の世迷い事を300頁もの、ご自身の「趣味」である歴史「研究」に交えて、副首都論のプロパガンダとも言える、それにも関わらずまったく内容のない、ホントに読む時間が無駄だったと言える本です。

 

 延々と古代から現代に至るまでの「遷都」にまつわる歴史をシロウトが滔々と自己満足的に語った挙句、メインテーマであるはずの「奠都」の効果については最終章で危機分散や関西の経済振興などという誰でも思いつくような効果にチョコチョコと触れただけで、個人的には副首都論そのものには反対ではありませんが、副首都論をブツ国会議員の見識がこの程度だと、維新の会の副首都論の内容の薄さも推して知るべしという、恥の上塗りとしか言いようのない本です…

インフレの時代/渡辺努

 

 

 長らくインフレを待望していたという経済学者の方が語られるインフレ論についての本です。

 

 2022年のロシアのウクライナ侵攻を契機に、長らく続いた日本におけるデフレがようやく終焉を迎え、インフレ局面に入ったと言われますが、この本ではデフレ下における経済停滞のメカニズムやそれを脱却させるための黒田総裁下の日銀におけるインフレ誘導の失敗の原因などを語られた上で、インフレの効用と、インフレに向かったメカニズムなども語られます。

 

 日本における長期のデフレは、物価があまり上がらないのなら労働者側としても積極的に賃金の向上も求めなかったという世界的、歴史的に見ても稀有な減少ゆえのモノで、しかもその時期も労働者不足はあったモノの、女性や高齢者の雇用拡大によって賄ってきたため、昇給を求める動きが少なかったことをあげていて、特に著者の渡辺さんは賃金を含めたあらゆる「価格の粘着性」を重視(経済学的には価格の下方硬直性って言った方が理解されやすい気もしますが…)されていて、そういった性質が顕著に表れたが故の、長期的な経済の停滞だと指摘されています。

 

 ロシアのウクライナ侵攻ひいてはアメリカのイラン侵攻などで、原材料価格が高騰し、かつ女性や高齢者の雇用拡大の余地も少なくなった今、労働者不足に伴う人件費の高騰の逃げ場のなくなったという背景もあって、企業側としても価格転嫁を恐れなくなって、かつ消費者側もそれをシブシブなのかもしれませんが、一定肯定的に受け入れ始めたということで、本格的にインフレ局面に入って、ようやく経済が正常化し始めたと言えることを指摘されています。

 

 結局、そういう経済の正常化で拡大局面を促すために、積極的な財政出動で後押しをするということなのですが、この本ではあまりコストプッシュインフレの弊害について触れられていないのが、ちょっと違和感を感じるところではありますが、如何にして企業の賃金上昇につなげていくのかということが、本格的な回復局面のカギとなりそうです。

日本が侵攻される日/佐藤正久

 

 

 元自衛官で、2025年7月の参院選で落選するまで参議院議員だった「ヒゲの隊長」こと佐藤正久さんが語る中国の日本侵攻にまつわる本です。

 

 冒頭で日本の地政学的な位置づけについて語られているのですが、日本周辺の地図を上下逆にしてみると、ロシアや中国にとって日本が外洋に出る上でキレイにフタをした形になっていることを指摘されていて、両国にとって日本の位置づけはジャマでジャマでしょうがない存在だということで、かつて太平洋戦争時の終盤にソ連が北海道領有に強い意欲を示したり、中国が沖縄領有をチラつかせるといった事象について強い「動機」があることを示されています。

 

 やはりロシアのウクライナ侵攻が大きな転換点となったようで、そのことを契機に中国がかなり現実的として台湾侵攻を実行する可能性が高まったということを様々な傍証とともに語られています。

 

 また、実際に台湾を振興するにあたっては、歌詞を作っている北朝鮮やロシアと強調して実行する可能性を指摘されていて、台湾侵攻を前にロシアや北朝鮮にミサイル発射などで防御を分散させた上で台湾侵攻を開始するのではないかと指摘されています。

 

 地理的に近いが故の影響だけではなく、アメリカが沖縄の基地から出撃した場合は、間違いなく中国派沖縄も攻撃対象とすると断言されていて、台湾侵攻はすなわち日本が交戦状態に巻き込まれるということです。

 

 習近平については、最初で最後と言ってもいい「好機」だということで、2027年の実行は現実的な危機として、対策を積み上げていく必要があるようです。

一気読み日本史/出口治明

 

 

 出口さんの歴史書ってかなり独特で、文献至上主義的で、それが故に為政者に都合のいい論理展開がされがちな「通説」に対し、世の中の実際の動きの大きな潮流を捉えようとする志向がうかがえるところが特徴と言えるかも知れません。

 

 そういう志向からか、一連の『0から学ぶ「日本史」講義』シリーズでも巻末に古代とか、中世とかと言った区切りごとに、その時期のGDPを提示されていて、世界における日本の経済的な位置づけを提示されているのが印象的ですが、この本ではそこまではされていないモノの、実際にそれぞれの時代の人の息遣いを感じられるような世の中の動きを提示できるよう腐心されているのが印象的です。

 

 常々、物事を把握するために「タテとヨコ」の捉え方を重視されているということで、歴史の捉え方においても、過去の事例だけではなく、世界の中での事例も捉えて歴史上の事象を捉えられているのが印象的で、平清盛の経済上の取組をスティーブ・ジョブスになぞらえたり、西郷隆盛・大久保利通をそれぞれ毛沢東・鄧小平になぞらえたりと、

 

 さらには経済を中心とした、世の中のうねりみたいなモノで歴史を捉えることを心がけているからか、例えば鎌倉幕府の滅亡について、元寇で消耗したことが遠因とする向きもありますが、むしろ元寇によって九州での存在感を示したことで、鎌倉幕府の威光は強化されていたと指摘されていて、むしろそれよりも御家人の土地所有を重視するあまり、平清盛以降の貨幣経済の進展に対応できず、むしろ逆行するような徳政令をは一考するなど、変遷に対応できなかったことを指摘されていることには、高いナットク感があります。

 

 一番印象的だったのが、聖徳太子に関する記述で、昨今聖徳太子の架空説なども取りざたされますが、『日本書紀』の編纂を担った藤原不比等としては、律令の基盤を蘇我氏が作ったことにすることは認められないということで、それらの功績を聖徳太子という「架空」のモノによる事蹟にしたのではないかというのですが、受け入れられない人は少なくないと思うのですが、なかなかにツジツマのあう説で、そうだったのかも…という気がしてきます。

 

 ということで、そういう実際のそれぞれの時期に生きた人々の息遣いを感じさせる歴史のダイナミズムみたいなモノを強く感じさせて、歴史のうねりを理解する上で、この上ないテキストだと思えます。

 

 ただ、あまりに一般的な知識とかけ離れているので、受験などの参考にはされないほうがいいかと…(笑)

知ってはいけない/森永卓郎

 

 

 昨年1月に亡くなられた経済アナリストの森永卓郎さんが生前念願だったという寓話作家としての『余命4ヵ月からの寓話』に続く第2弾です。

 

 前作に引き続き森永さんの毒がたっぷりと盛られたお話が満載で、どこかの国のどこかの官僚のように増税のキャンペーンをしたり、ひと頃収監された起業家が次第に国家に篭絡されていく様子など、どこかで見たような話しが下敷きになっています。

 

 特に、『書いてはいけない』で取り上げられていた「3大タブー」のひとつである日航機墜落の真相を思わせるエピソードも盛り込まれていて、森永さんの真相を暴こうとする執念を感じます。

 

 また、ご自身をモチーフにしたと思われるブーちゃんというキャラが再三登場するのが微笑ましいところですが、結構家族のエピソードをセキララに語られていて、大丈夫か!?とも思えますが、そういう露悪的な部分も含めて、語り尽くして逝きたいという切なる想いを強く感じさせるモノでした…

そして誰も翻訳しなくなった/宮崎伸治

 

 

 ある翻訳家の方が、企業での翻訳をされていた際の経験を語られた本です。

 

 ただ、企業翻訳の経験と言いながら、企業における翻訳の在り方とか、そういう翻訳そのものについての言及はかなり限定的で、ほとんどは結局はご本人もその会社を離れられて、鳴り物入りで発足した翻訳室自体がなくなってしまうという経緯を語られたモノです。

 

 ということで、正直翻訳についての内容を期待していたワタクシからすると肩透かし感ハンパなく、上司のパワハラ気質とか、やたら学歴にこだわるところとか、登場する翻訳家の相当マイペースな感じとかで、結局は組織として成果を残すどころではなく崩壊していく様子を紹介されているということで、組織論的なことを語られている言えなくもないのですが、取り上げ方がゴシップ的で、どういう読者のどういう反応を期待してこんな本を出版したの!?と訝しくなるほどで、覗き見趣味的なところ満たす以外、ほとんど時間のムダでした…