ファンベース/佐藤尚之

 

ファンベース (ちくま新書)

ファンベース (ちくま新書)

 

 

 さとなおさんの、本業であるプロモーション関連の本なのですが、『明日の~』シリーズ三部作を経て、“次の”段階に進んだといった感じの本です。

 三部作では、マスから個へのアプローチ、個の関心へのアプローチ、ファンの形成といったネットの進展に伴うプロモーションの進化を語られてきたのですが、この本では“ファン”を一歩進めて、“ファン層”を形成し、それを基盤とした経営の「資産」づくりについて紹介されています。

 従来は如何にして新規の顧客層にアプローチをするかということがプロモーションの主眼となっていたということですが、実は売上の80%は20%の顧客層からのものだということで、如何にこの20%の“ファン層”を大事にするかということが、目先の売上だけではなく、長い目で見た企業の存続にも関わるということで、如何に自社の製品・サービスに愛着を持てもらうかという方策について語られます。

 ただ、あからさまな“囲い込み”は却ってファンの反発を招くことにもなり、如何に本業で提供する“価値”そのものを高めるか、よりファンに愛してもらえるか、ということが、その先のディープなファンが自分の周囲の人に自分が愛する製品・サービスを勧める「オーガニック・リーチ」により、さらなるファン層の拡大につながるということです。

 そのためには本業での価値にとどまらず、“顔の見える”同士のコミュニケーションを進めていくことで、ファンのさらなる愛着を獲得できるということで、SNSやリアルでのコミュニケーションによる関係性の深め方の事例も紹介されています。

 このあたり、行き過ぎた資本主義からの転換と言う意味でも、ただ業績ばかりを追い求めるのではなく、顧客との関係性という“価値”の重要性がクローズアップされるという一類型なのかも知れません。

 いずれにせよ、企業がちゃんと顧客と向き合うということは、新たな潮流でもあるんでしょうけど、古き良き商慣習への回帰とも言えるのかも知れませんね。