このブログでも再三取り上げている手嶋さんと佐藤さんのインテリジェンス関連の共著ですが、この本は今まで紹介してきた本のような対談形式ではなく、インテリジェンスの「テキスト」ということで、具体的な事例を題材にしてインテリジェンスに携わる人たちがどのような考え方で従事されているのかを紹介されています。
そもそもインテリジェンスというのは「国家が動乱の中を生き残るために選りすぐられ、分析され抜いた情報」だと定義され、同時に「一国のインテリジェンス能力は、その国力から大きく乖離しない」とおっしゃられています。
そんな中で日本のインテリジェンス能力は、その経済力と比較しても、また「軽武装の通商国家を標榜」しているにしては著しく低いということで、その表れとして"Intelligence"に該当する訳語すらないことを指摘されています。
そんな日本においてもインテリジェンスを強化して行きたいとの想いがあってこの本を作られたということです。
特に印象的だったのが9・11テロに関連するインテリジェンス活動のところで、“世界最強”かと思っていたアメリカのインテリジェンス組織がなぜあのテロを防げなかったのかということが紹介されています。
この章の冒頭でインテリジェンスの責務として「あたかも無関係に映る事実を丹念につなぎ合わせ、そこに埋め込まれている個々の出来事の意味を読み解き、大きな構図に結い上げていくことにある。」とおっしゃられています。
その前の章で「インテリジェンスの思考の基本は「ロジック」にあり、筋道の通った論理が成り立たない場合は、前提に事実誤認があると考えるべきなのである。」とおっしゃられているのですが、9・11テロ以前にFBIやCIAといったインテリジェンス機関がそれぞれその前兆と思われる情報を入手していたにも関わらずテロを防げなかったのは、両者の機能の差異もあって、十分な連携が図れなかったことが原因だと指摘されています。
そのことについて軍事大国は必ずしもインテリジェンス大国とは限らないということで、逆に大国の狭間で生き抜いて行かなくてはならないイスラエルのような国家がインテリジェンス大国となる必要があるということで、日本もアメリカに依存しっぱなしではなく、マジメにインテリジェンス活動に取り組んで行かないと取り返しのつかないことになってしまいそうです。