女子のキャリア/海老原嗣生

 

 ここのところ延々と常見さん推奨のジェンダー論関連の本を読み続けていますが、この本が一番プレーンでパランスが取れている気がします。

 主に会社における女性の地位の変遷を取り上げられていて、モチロン今の状況が女性に取って理想的なワケではないんですけれども、諸外国の女性の社会進出のプロセスを見ても、日本は順調とは言えないまでも、着実に進展しているとおっしゃいます。

 というのも本格的に会社における女性の待遇の改善のスタート地点となったのが1999年の雇用機会均等法の施行で、そこからまだ十数年しか経っていないということもあって、会社でキャリアを志向する女性の数自体がようやく増えてきたという状況で、徐々に会社の制度も、そういうキャリア志向の女性を受け入れる体制を整えつつある状況だということで、現在は雇用自体は増えてきているモノの、管理職の女性自体が少ないということで、雇用の「質」がまだ追いついていないようですが、ただそれも時間の問題だとおっしゃいます。

 そんな中でひとつ海老原さんが警鐘を鳴らされているのが、一般職が従事する「庶務」的な仕事の軽視なんですが、どっちかと言うとこちらの方が女性にとって「変えの利かない」仕事ができる可能性もあるということで、やたらと資格や語学に走るよりも、仕事のプロセスに精通する方が、社内でのキャリアを深める意味でも、転職をしようとする上でも「使える」スキルになる可能性が高いと指摘されています。

 あとは、選択の幅を広げるという上で、子供を産む時期の選択肢を広げるという意味で、35歳位までに出産しないと…という社会的な認識に、あまり科学的な根拠はなく、統計的に見ても40歳代で出産することが荒唐無稽なことではない、ということを指摘されています。

 社会の環境をもっと女性のキャリアを高めるのにいいモノにしなくてはならないのはモチロンなのですが、そういう他力本願だけでなく、目の前の状況に不満を覚えるばかりでなく、柔軟な対応を志向することで、キャリアも結婚も出産・子育ても両立されることができる可能性があるようです。

 

 

無頼化した女たち/水無田気流

 

無頼化した女たち

無頼化した女たち

 

 

 昨日紹介した『無頼化する女たち』が2009年出版で、この本が2014年出版ということで、前の本出版以降の動向を追ったモノかとおもいきや…なんとこの本の最初の200ページ余りは、まんま『無頼化する女たち』…それに『女子会2.0』でも対談に参加されていた西森路代さんとの対談と、最後の20ページ弱に東日本大震災等の大きな社会変動を経た上での女性の「無頼化」の様子にサラッと触れた後、ご丁寧に『無頼化する女
たち』のあとがきをまんま持ってくるという、なかなか前例のない斬新な構成です。

 対談パートも、その頃にしか通用しないであろう時事ネタがバンバン飛び交っているにも関わらず、一切注釈無しというザツな造りで、こんな本造りあり?と、もしこれをおカネを出して買ってたら、かなりアバレたくなってだだろうなあ…

 それでも、新書→単行本化という異例のプロセスを経てもこんな本が求められているということを、逆説的に感じさせられました。

 

無頼化する女たち/水無田気流

 

無頼化する女たち (新書y)

無頼化する女たち (新書y)

 

 

 『女子会2.0』にも参画されていた水無田さんの著書です。

 先日、田中理恵子名義で書かれた本も紹介しましたが、あちらがやたらと生硬な文章で書かれていたのに比べると、こちらは多少クダけた表現も見受けられるものの、『女子会2.0』での会話に比べるとやっぱりカタい文章です。

 女子が「無頼化」してきたということですが、上野千鶴子さんの『おひとりさま』や酒井順子さんの『負け犬の遠吠え』のように結婚せずに一人で生きていく女性が増えていっているというのもひとつの形態なのですが、結婚していたとしても、白河桃子さんがおっしゃる「専業主婦幻想の終焉」もあり、ダンナさまに頼ってばかりではいられないという側面もあるようです。

 冒頭で女子が「やさぐれ」てきているとおっしゃられていますが、「おひとりさま」がヤケになるとか、共働き家庭の主婦がコッチも働いているのにダンナは家事も育児も何もしない!(怒)とか、婚活中の女子がカワイく「武装」しても「食わせて」くれるオトコは最早いないとか…いろんな意味で女性らしさを失っていく女性が増えているようです。


 あくまでも過渡期なんでしょうけど、女性が女性らしさを保った上で、キャリアも結婚も出産も両立させることができるような社会が求められるということなんでしょうが…

 

「キャリモテ」の時代/白河桃子

 

「キャリモテ」の時代

「キャリモテ」の時代

 

 

 白河さんの「婚活」本の1冊です。

 「キャリモテ」ということで、キャリアを積んできた女性がこれからモテる!という内容かと思いきや…

 旧来、女性は自分を養ってくれる自分より高収入の男性を求め、男性は自分の尊厳を脅かさない自分より低収入の女性を求めたということで、女性でバリバリとキャリアを積み上げた人はこういうロジックの下で恋愛市場ではハンディを背負っていたということです。

 でも昨今男性の側が女性を養うことを「放棄」してしまい専業主婦が過去の遺物となった現在男性側も「稼げる」女性を結婚相手として求めるようになっており、キャリアのある女性がモテる時代が来ようとしているとおっしゃいます。

 アメリカでは既に高キャリアの男女が結婚する傾向が高いということで、クリントン夫妻が好例として挙げられていて、女性が高キャリアだからといって結婚できないということではなさそうです。(日本人男性からするとアマゾネス的であまり近づきたくない感じがするライス元国務長官ですが、モテモテで有名だったそうです。)

 でもだからと言って日本でいきなりそういう風潮が来るということでは無いようで、ただキャリアがあると言うだけで結婚相手としての対象から外れるということが
無くなるというだけで、高キャリアの女性としても、男性が低所得だからと言うだけで結婚相手の対象から外すということを止めないと、相変わらずレッドオーシャンの中で血みどろの戦いを強いられるということです。

 やっぱり結婚には諦めが肝心だということでしょうか…

 

平成幸福論ノート/田中理恵子

 

平成幸福論ノート 変容する社会と「安定志向の罠」 (光文社新書)

平成幸福論ノート 変容する社会と「安定志向の罠」 (光文社新書)

 

 

 昨日紹介した『女子会2.0』にも参加されていた水無田気流さんが本名名義で書かれた本です。

 『女子会2.0』では座談会形式で、発言を取り上げられていたんで、カジュアルな印象だったのですが、この本は、社会学者の顔で語られているのか、かなり生硬な語り口です。
 
 高度経済成長期以降の「幸福」の変遷を語られているのですが、このブログでも再三著書を取り上げている出口治明さんが、欧米キャッチアップ型のビジネスモデルの崩壊を主張されていますが、そういう部分がビジネスの世界だけではなく、日本人のライフスタイルにも表れているんだな、ということを痛感させられます。

 さらには、ジェンダー論で最近よく語られる専業主婦幻想の崩壊についても取り上げられていますが、そういった中で、経済的な充足=「幸福」なのか、ということについて疑問を投げかけられます。

 戦後日本はそこに疑いをさしはさむことなく突っ走ってきた面があるのですが、段々とアメリカ的なライフスタイルが風化していくにつれ、そこに疑問を持つ人が増えてきており、そうでなければシアワセになれるんじゃないか、と思えるところが多々ありました。

 そういう側面って、もっとクローズアップされるべきなんじゃないか、とも思います。

 

女子会2.0/「ジレンマ+」編集部

 

女子会2.0

女子会2.0

 

 

 ジェンダー論の強者女子会になぜか古市さんが紛れ込んだ座談会+各論者によるショートエッセイで構成された本です。

 最後の方のエッセイにのみ「婚活」の白河さんが登場しますが、2013年に出版されたこの本の時点で、白河さん自身は「婚活」から「女子+仕事」に活動の重点をシフトされているということなんですが、結婚するにせよしないにせよ、女性が一生の仕事を持つということが、今後成人する女性にとっては必須のこととなっているということです。

 そういう時代背景を踏まえた「女子会」なワケですが、そういうシワ寄せって、概ね女性の方が被るモノであるようで、そういうことをも加味した上で、それでも結婚するのか?ということでもあるようです。

 そうなると恋愛をするにも男女ともお互い、先々まで見通した上で、それでも大丈夫!という確信がなければ踏み出せないところがあるようで、この本の中で紹介された数字に愕然としたのですが、アラフォー世代と言われる35~39歳世代の女性の25%、男性に至っては30%超が性交渉の経験がないということです。

 まさに転換期にあるんでしょうけど、結婚もし難いし、コドモも持ちがたいということで、「保健所落ちた、日本死ね!」じゃないですが、誰がこんな世の中を望んだんでしょうね…

 

勝ち続ける意志力/梅原大吾

 

勝ち続ける意志力 (小学館101新書)

勝ち続ける意志力 (小学館101新書)

 

 

 先日紹介したちきりんさんとの対談本で深遠な発言を再三繰り出していた、世界一のプロ格闘ゲーマーの梅原さんの半生記です。

 まあ、対談本での発言の「深さ」はちきりんさんに引き出された部分もあったようで、この本ではそこまでの「深さ」は発揮されていませんが、やはりある世界でトップを極めた人ならではの「哲学」を感じます。

 梅原さんが世界一になった頃、日本にはプロのゲーマーはいなくて、梅原さん自身、プロになるという発想はなく、いくら頂点を極めたと言っても、何一つ成し遂げたという感覚に苛まれ続けて、一時は完全にゲームから離れてしまったようです。

 復帰をしてから、依然と変わらぬ実力で勝ち続けたことから注目されて、プロになるよう誘われて、ようやく「ゲームをやってていいんだ」と感じられたということです。

 梅原さんのスゴイところは、一旦勝っても、平然とそのスタイルを捨てて、新たな取り組みをするところで、やっぱり同じ闘い方に固執する人は、一旦は勝ててても持続することは難しいようです。

 こういうストイックな人が居られると知ると、ゲームも捨てたもんじゃないなあ、と感じます。