君の働き方に未来はあるか?/大内伸哉

 

 

 一見、ありがちな自己啓発本っぽいタイトルですが、労働法が専門の大学教授が労働法的な観点から雇用関連のトピックを紹介された本です。

 この本は2013年に書かれた本で当時非正規雇用に関する問題がクローズアップされていた頃だということもあって、正社員であることと派遣などの非正規雇用で働くこと、自営業として働くことについての労働法的な差異について、とても丁寧に解説されています。

 そういう所に留まらず、のちに安倍政権において導入されることになるホワイトカラーエグゼンプションについても、早晩日本でも導入されることになると見通されています。

 というのも、この本でイタリアにおける雇用状況を紹介されている章も盛り込まれていることでわかるように、欧米から見ると日本の雇用を取り巻く状況はかなり特殊で、現在では長期雇用慣行に基づく労働者の育成に関するコストを企業が担うことはかなりの負担となっており、グローバルな競争においてはかなりのハンディキャップとなってしまうということで、いずれ日本でもこういう制度は消滅し、労働者自身が就職以前から自分のスキルを積極的に形成していく必要があるということを指摘されています。

 2013年時点で大内先生は自身が教えられている学生についてノホホンとしているとおっしゃられていますが、ここ数年で学生の意識も相当変化しているように見受けられ、大内先生の“予言”がここでも当たっているようで、なかなかキビシイ状況にあるようです。

 

劣化するオッサン社会の処方箋/山口周

 

 

 コンサルとしてグローバルに活躍されている方が語られる日本社会における“老害”です。

 この本で山口さんがおっしゃる“オッサン”というのは必ずしも年齢・性別で括られるモノではなくて、古い価値観に固執し傍若無人な振る舞いをして自らを省みることのない人々だということで、旧来的な日本の会社にありがちですよね!?

 この本はそういう“オッサン”の生態を描いた“あるある本”かと思いきや、如何にそういう“オッサン社会”の害悪の影響を最小化するかということを紹介されています。

 ということで基本的に若手のビジネスパーソンがメインターゲットかと思うのですが、そういう“オッサン”が目の前にいた場合の対処方法として、「オピニオン」と「エグジット」を挙げられています。

 「オピニオン」というのは“オッサン”の傍若無人な振る舞いに対して意見することで、それでも直らない場合はそこから退出「エグジット」することっで、“オッサン”が反社会的な行為をしているのを黙ってやり過ごすことは“共犯”と同じとまでおっしゃられています。

 ただそのためにはすぐにでも会社を辞められるだけの「モビリティ」を備えておく必要があることにも言及されています。

 じゃあ我々のような既に“オッサン”である者たちは周りに毒をまき散らしてばかりでいるしかないのかと言えば、そこに対しても“処方箋”を提示されています。

 昔から何らかの弊害がありながら“オッサン”が曲がりなりにも尊重されてきたのは、経験に基づく知恵にそれなりの価値があったからなのですが、変化の激しい現代社会においては、経験に基づく知恵の価値は著しく低下しており、“オッサン”は毒をまき散らすだけの存在に堕してしまっているということで、そうならないためには“オッサン”も変化を恐れず自分がワクワクできることに取組み続けることだということです。

 人生100年時代、50歳代なんてまだまだトライアル&エラーの年代だということで、ミョーに勇気づけられました!

 

人類5000年史Ⅱ/出口治明

 

人類5000年史II (ちくま新書)

人類5000年史II (ちくま新書)

 

 

 『人類5000年史』の第二弾で、今回は紀元元年~1000年までが対象となります。

 "Ⅰ"の最初の方は人類の起源など歴史以前のことが結構長かったのですが、"Ⅱ"ではいきなりキリスト教の起源から始まります。

 この他仏教やイスラム教の起源も出てきますし、中国なんかだと三国志の世界も出てきて、あまり世界史に造詣の無いワタクシでもかなり馴染みのあるコトバが出てきて、読みやすくなってきたりします。

 出口さんの他の世界史関連の著書でも再三強調されていますが、この本でも触れられているのが、中国とイスラム世界の先進性です。

 どうしても我々は現代が台頭して以降の世界を通して歴史を見てしまうので、中国やイスラム世界の先進性の印象が薄くなってしまいがちなのですが、出口さんは様々な文献でのファクトを重ね合わせた上で、できる限りプレーンにその影響力を見通そうとしているところが印象的です。

 また出口さんのこれまでの世界史本と共通して、同時代性を重視した構成が、地域間の横のつながりが明確になって、意外な程のグローバル感に驚かされます。

 続刊もこういった歴史観を期待しています。

 

グルメぎらい/柏井壽

 

グルメぎらい (光文社新書)

グルメぎらい (光文社新書)

 

 

 本業は歯科医でありながら食通として知られ、自らも多くの食に関する著作を持つ方による昨今のグルメを取り巻く環境への嘆きを綴った本です。

 柏井さんによるとSNS全盛の昨今のグルメを取り巻く環境は、本来美味しいモノを楽しむといった姿勢が希薄になっていて、料理人にしても、食べる側にしてもブランド志向というか、有名なこの店の料理を食べてますということに血道を上げていたり、料理人の側も味はさておきインスタ映えのために見た目を優先したりしていて、かなり歪んだものになっているんじゃないかということです。

 柏井さんが京都出身だということもあって、京都的な斜に構えた視点!?という見方も無きにしも非ずなのですが、それにしても食べ物の美味しさよりも“名前”を優先させることに強い違和感を感じてはみたものの、ワタクシ自身、こんな店で食べましたよとSNSに上げるときに、“こんな店”ということを全く意識していないと言えばゼッタイにウソであって、知らず知らずのうちにそういう毒され方をしていたのだなと思うと、ちょっと怖い気がします。

 やっぱり自然に食を楽しむのなら、SNSって敵なのかも知れませんねぇ…

 

知の越境法/池上彰

 

知の越境法 「質問力」を磨く (光文社新書)

知の越境法 「質問力」を磨く (光文社新書)

 

 

 あの池上さんが如何にして「池上彰」になったかを教えてくれる
本です。

 旧来日本では専門家を尊重し、ジェネラリストを軽視する傾向が強いのですが、様々な事象が複雑に絡み合い、グローバリズムが浸透した現代においては狭い範囲の専門性に依拠していては、目の前の事象に対応しきれないようになっているということで、池上さんは積極的な「越境」を勧められています。

 ご自身も自らの意図していたところとは違った分野で記者を務められたり、当時としては異例の、記者でありながらキャスターを務めるなど様々な「越境」を経たからこそ「池上彰」となったんだとおっしゃられます。

 そのために重要なのがリベラルアーツだとおっしゃられておられて、それを蔑ろにしてきた日本人がグローバルビジネスの世界で軽視されていることを指摘されています。

 文科省は“実学”ばかりを重んじて“教養”を軽視してきており、そういった教養を重んじる意図だったはずのゆとり教育も目先の学力の低下で批判を受けたら、一瞬で撤回され、逆に今度は“実学”を必要とするはずの産業界から、出来上がってきた学生の教養の無さを批判されているという体たらくです。

 基本的な“教養”を厚くすることで専門家ともかなりディープな議論は可能だということを池上さんは自ら証明してきており、今後の大学教育の改革ではそういった方向性が強く期待されます。

 

医者に殺されない47の心得/近藤誠

 

医者に殺されない47の心得 医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法

医者に殺されない47の心得 医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法

 

 

 がん放置治療の近藤センセイの本です。

 この方、テーマによってネタの配分は異なりますが、基本的に盛り込む割合は異なりますが、どれか一冊を読んでみれば概ねお考えは把握できるかと思います。

 この本でもがん治療への批判、過度の投薬、必要とは思えない治療を施す医師などのことが取り上げられています。

 大場センセイの「近藤理論」批判本でも言われているように、近藤理論は“極論”なんでしょうけど、そういう極論が出てくる背景には、諸外国と比べた場合の日本での医療の“やり過ぎ”があるのは間違いなさそうです。

 国民皆健康保険というのは、当然良い側面もあるんでしょうけど、その反面、安易に病院に頼ってしまい、かつ盲目的に医師の言うことに従ってしまう弊害が出てきてしまっているのかも知れません。

 だから近藤センセイの本も、その批判本もキチンと読んで、ちゃんと自分なりの考えを持つことが重要なのかも知れません。

 

男・50代からの糖質制限/江部康二

 

男・50代からの糖質制限: ストーリーで学べる最強の食事法

男・50代からの糖質制限: ストーリーで学べる最強の食事法

 

 

 長らく糖尿病治療などに携わって来られた医師である方が、中高年の糖質制限を語られます。

 テニスのトッププレイヤーであるジョコビッチグルテンフリーの考え方を取り入れていることから、広がりを見せている糖質制限ですが、江部先生は50歳代こそ糖質制限を取り入れることにより、健康的にダイエットをできるのみならず、老化の抑制を図ることができるということです。

 糖質制限なんていうと、色んな意味でかなりハードルが高そうな気がしますが、お酒もお肉もそれほど制限を気にせず食べられるということで、酒好きのワタクシにも取り入れやすそうな感じです。

 しかも、昼食などでは外食をすることが多くて、定食なんかを食べてご飯やパンなどの糖質を取ってしまいがちのサラリーマンが具体的にどうやって糖質制限に取組んだらいいかについて、ストーリー仕立てでリアルな対応を紹介されていて、非常に参考になります。

 あとは、ラーメンをどうやって減らすかですかねぇ…