「やりたい仕事」病/榎本博明

「やりたい仕事」病 (日経プレミアシリーズ)

「やりたい仕事」病 (日経プレミアシリーズ)

 近年、就職活動の際に、キャリアデザインをした上で活動をすること
が奨励されていて、ある会社では、明確なキャリアデザインのない人は
採用の対象外だ、と豪語するところもあるようです。

 確かに、自分の目標が明確になっていれば、仕事に対するモチベーシ
ョンは上がる、という側面はあると思うのですが、就職活動をしている
学生が、入った会社でどういうキャリアをたどるかってことを、全然
仕事の中身も網羅的に認識しているわけじゃないのに、実効性のある
キャリアデザインなんかできっこないのに、ということがこの本のスタ
ート地点にあります。

 もっと問題なのが、キャリアデザインを「強要」している会社でも、
その学生の「キャリアデザイン」に則した配属が必ずしもなされるわけ
ではないようで、そうなった場合、モチベーションは真逆の方向へ行っ
てしまいかねません。

 それよりも、榎本さんが問題視しているのは、「キャリア」の行方
に目が行くばかりに、「キャリア」の根幹を成すためのベースを築く
ための、目の前にある「基本的な業務遂行」のためのスキル形成を蔑ろ
にしかねないところだとおっしゃいます。

 成功しているビジネスパーソンであっても、働く以前に描いていた
「キャリアデザイン」どおりにキャリアをたどってきた人なんて、ほぼ
皆無でしょう。

 キャリアデザインというのは、その人の適性を踏まえた上で描かれる
べきなんでしょうけど、「適性」というのは、素質と経験の相互作用で
形成されるもので、その半分の「経験」を欠いた時点でのキャリアデザ
インなんて、役に立たないばかりか、害すらなす物であるとおっしゃい
ます。

 当初嫌いとか苦手だと思っていたことをやってみたら、ハマッたって
ことが、仕事に限らずあるでしょう。

 だから、目の前の仕事を一生懸命やることが、キャリアにとって最も
重要なことのようですよ。