沢木耕太郎さんの初期のエッセイ集として出版された『路上の視野』が『紙のライオン (文春文庫)』『ペーパーナイフ (文春文庫)』『地図を燃やす (文春文庫)』の3冊の文庫本になって出版されたのですが、この本は特に沢木さんが初期の著作における“方法論”について語られた内容が多く収録されているということで、興味深い内容となっています。
沢木さんのデビュー当初、アメリカでは丹念な取材によって細かなシーンを重ねるように情景を表現するようなノンフィクションを著述する”ニュージャーナリズム”の手法による著作が広く提唱されていて、沢木さんは日本における”ニュージャーナリズムの旗手”としてもてはやされていたようです。
ただ、沢木さん自身は、ニュージャーナリズム的な手法をご自身の著作に活用されていたことは認められているものの、そのように扱われることに違和感を感じていたようです。
というのも沢木さん自身はノンフィクションの書き手ではあるものの、ジャーナリスティックな著作はほとんど手掛けることが無く、あくまでもルポライターとしてノンフィクションを手がけられていたというところがあるようです。
ただまるで見ていたかのようにシーンを描くことには憧憬があったようで、そういう意味で丹念な取材を重ね、できるだけそれに近い著作を志向されていたようですが、その志向が強まれば強まるほど、フィクションを書いてしまう誘惑にかられるということで、実際アメリカでピューリッツァー賞を受賞した作品に「フィクション」が含まれていたことで受賞が取り消しになったこともあり、ギリギリの線を追ったストイックな著作をされていたことを伺わせます。
その志向が、やがて自分自身をストーリーの中に投じさせた『一瞬の夏』における”私ノンフィクション”というカタチに結実するワケですが、そこに至る葛藤が赤裸々に語られます。
その後、小説も手がけていくことになる沢木さんですが、この頃にこういうギリギリの葛藤を体験しているからこそ、違和感なく創作の世界に入っていけたのかもなぁ、と感じさせられます。