沢木耕太郎さんのデビュー作で、先日紹介した『敗れざる者たち/沢木耕太郎』と『
地の漂流者たち (文春文庫 209-3)』で初期3部作をなすうちの1冊です。
この本の初版が出版されたのが1973年で、この本が出版された翌年に、その後『深夜特急』としてまとめられる1年半にも及ぶ旅行に出られる訳ですが、大学卒業後、プロとしての執筆経験なく執筆生活に入られて、3年を置かずにここまで豪華な面々のインタビューをして、1冊の本として出版されるまでになるというのは、沢木さんの並々ならぬ才能を伺わせます。
ただ、デビュー当初の執筆ということもあって、その後の文体とはかなり異なり生硬な感じの文章が多いですが、後年の沢木さんにも共通する、取材相手に入り込む巧みさというのはすでに発揮されていて、特にこの本でのインタビューにおいても自ら明らかにされているように、プロゴルファーの尾崎将司氏や航海家の堀江謙一さんなどの、気難しい取材対象に対しても、臆せず飛び込んでホンネを引き出すスキルには驚嘆を覚えます。
さらには、映画監督の山田洋二氏や、その後世界的な指揮者となる小澤征爾氏など、今から見ると、駆け出しのライターがインタビューをできる相手なのか!?と訝しくなるほどのラインアップですが、そういった面々が若き日に抱えていた葛藤を、現在の成功後の姿を見るにつけ、その当時とはかなり異なるであろう感慨を抱くことができます。
以前、金子達仁さんの『ターニングポイント』が、この本になぞらえられているということについて、ちょっと大げさなんじゃないかと言及しましたが、この本での沢木さんがデビュー当初であり、金子さんがデビュー後すでにそれなりの時間が経過していることもあって、文章表現の巧みさなどは金子さんに軍配が上がると思われますが、インタビューの相手の深奥に飛び込めるスキルと言うのは双方に共通するものなんじゃないかと感じました。