いま生きる「資本論」/佐藤優

 

いま生きる「資本論」 (新潮文庫)

いま生きる「資本論」 (新潮文庫)

  • 作者:優, 佐藤
  • 発売日: 2017/01/28
  • メディア: 文庫
 

 

 久々に「知の怪人」佐藤優さんの著書の紹介なのですが、こちらは佐藤さんが著書で再三取り上げられている『資本論』を、新潮社の主催で読み解こうという講座を本にまとめたモノです。

 

 『資本論』というと、多くの人に取って、どうしても”社会主義の原典”ということもありイデオロギッシュに捉えてしまいがちなのですが、佐藤さんはこの本を純粋に経済学の本として捉えることを再三提唱しておられて、この本では、特に『資本論』を純粋な経済理論の拠り所として研究された第一人者である宇野弘蔵さんの研究の成果を念頭において、『資本論』を読み解いていかれます。

 

 『資本論』は、共産主義の元となった、労働商品論が主に語られがちですが、佐藤さんがまず強調されるのは、近代経済学が貨幣を所与のモノとして、あまり貨幣の機能や意義を深く追求しないのに対し、『資本論』ではそもそも貨幣というモノがどういうモノなのかということを深く追求されており、その理論をベースに、佐藤さん自身がソ連駐在時代にマルボロ擬制通貨として使われていた事例で、分かり易く説明されています。

 

 この本での佐藤さんは、講演会というシチュエーションもあるからか、ビミョーにブラックなジョークも織り交ぜて、かなりかみ砕いて『資本論』の理論の概要を紹介されていますが、佐藤さんが『資本論』の再評価を勧められるのは、資本主義の限界が取り沙汰される昨今、『資本論』の理論から新しい価値観を見出すことにつながるということを指摘されておられ、『21世紀の資本』で知られるピケティなど新進の経済学者も『資本論』のエッセンスを取り入れているということです。

 

 この本の出版自体が2014年と多少の時間が経っていますが、こういう考え方が昨今の閉塞状況を打開するキッカケになるのかも知れません。