仕事がなくなる!/丹羽宇一郎

 

 

 伊藤忠商事の社長を務められ、名経営者のおひとりとして数えられると共に、財界きっての読書人としても知られる丹羽さんが語られるAI時代の到来を見据えた仕事の在り方です。

 

 さすがに財界きっての教養人だけあって、この本の執筆時点で84歳であるにも関わらず、AIの動向について強い関心を示されているようで、同時にその進化がもたらす「仕事」への影響について危機感を露わにされています。

 

 コールセンター業務や医療関係など、人間の人間たる部分が作用していると、個人的には感じていた仕事がAIにとってかわられるなど、確実にAIが請け負う領域が増えつつあるのですが、そんな中で若い人たちのタイパやコスパなどと言われるような効率重視の働き方ゆえに、逆にAIにとってかわられるリスクが上がるんじゃないかということを指摘されています。

 

 「正解」重視の教育の影響もあるんでしょうけど、近年特に若い世代でタイパやコスパといった要素が重視されているということで、できるだけ早く「正解」を求めたがる傾向が強いワケですが、そういう点は正にAIが得意とする部分であり、そういう姿勢での仕事はAIによる代替の可能性が高まってしまうのではないかと危惧されています。

 

 仕事をする中でいきなり「正解」に飛びつこうとするのではなく、かつては、ああでもない、こうでもないという試行錯誤を繰り返しながら結果をだすというプロセスを経ていたことを言及されています。

 

 そういう試行錯誤の積み重ねがあってこそ、仕事をしていく上で改善の必要性などの問題意識を持つことができるようになるということで、現時点でAIにはできないと言われている課題設定につながっていくということで、AIに使われるのではなく、AIを使う人材になれるんではないか、ということのようです。

 

 『部長って何だ!』を紹介した際にも言及しましたが、この方の旧時代的な労働観というか成功体験って、正直あまり好きにはなれないのですが、コトAIによる代替という意味ではナットクできるところが多く、試行錯誤を繰り返す中での志向の積み重ねというモノがAIでは代替できない何かを蓄積することにつながるような気がするのは、ワタクシ自身も、バブル世代ということで「最後の昭和の残滓」だということの証左なのでしょうか…