経済ってこうなってるんだ教室/海老原嗣生

 

 

 先日『いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる (PHP新書)』を取り上げた海老原さんが経済の入門書を書かれているということで手に取ってみました。

 サブタイトルに『小学校の算数と国語の力があればわかる経済・金融の超入門書!』とありますが、ワタクシ自身公務員試験や中小企業診断士試験の対策でかなりツッコんで経済を勉強した時期があったのですが、それでも後半部分はかなり丹念に読み込んでいかないとなかなか理解できない部分が多くて、“ルイスの転換点”や“スティーブ化”といった初耳の用語もあり、さすがにド初心者がサラッと読んで理解するのはキビシそうです。

 ただ最初の部分で金利や為替といったベースとなる部分なのに多くの人がキチンと理解していないところを、これでもか!?というくらい丹念に説明しておられて、こういうベースを持っていれば、その後の理解がスムーズなんだろうなあと思わされます。

 結構難解な部分があるのは確かなのですが、アベノミクス中国経済の現状、トランポノミクスの展望など“旬”のトピックの理論的な背景が提示されているので、丹念に読むことで、現象面の理解が格段にスムーズになることでしょう。(ワタクシ自身も、そういうことやったんか!?)と思うところが多々ありました。)

 まあ、NHKラジオで以前あった『やさしいビジネス英会話』じゃないですが、これくらいを“やさしい”と思えないと…ということなのかも知れませんが…(笑)

 

TOEIC亡国論/猪浦道夫

 

TOEIC亡国論 (集英社新書)

TOEIC亡国論 (集英社新書)

 

 

 通訳の会社をされている方の英語学習法に関する本なのですが…

 まあタイトルがこんなんなのでTOEICをディスってるのですが、まあ、見事にトッ散らかった内容で…

 時折いいことをいっているな、と思ってたら中途半端で放り出してべつのトピックへ行ったりと…

 まあ、浮世離れした学者センセイなんかでアリがちな独りよがりというか自由な感じで、全体として何を言ってるのか全然わかりません。

 もうちょっと編集者の人、どうにかしてあげられなかったんですかね…

 

いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる/海老原嗣生

 

 

 雇用ジャーナリストの方が紹介する働き方改革方法案の“真相”です。

 とかく“残業代カット”だけが取り沙汰された働き方改革方法案ですが、この本を読んでいると、かなり皮相な捉えられ方しかされていないことがわかります。

 というのも元々この法案は、欧米的な職務給をベースにした雇用形態の導入を目指したもので、所得倍増計画の池田内閣の頃からの悲願だということなのです。

 この考え方が定着すると、働かない中高年層の問題と中高年層の人件費の高騰、定年の延長と言った多くの問題の処方箋となる可能性があり、その役割を終えたとも言える日本的な雇用慣行を根底から覆すポテンシャルがあるといいます。

 しかも欧米的な雇用慣行の弱点である、入り口のハードルの高さを、日本的な新卒一括採用を継続させることでクリアし、一定のところまでは従来の日本的な育成を行い、その後に欧米的な職務給的な雇用形態に移行することで、中高年層の人件費高騰を抑制を実現するという、いいとこどりを提唱されています。

 最初読み始めた時、与党の提灯持ちなのかとマユツバだったのですが、なかなか画期的な考えですね。

 それなのに、与党は与党で財界の目先の要求を野党は野党で言葉尻の揚げ足取りに終始してしまってホントの「ホワイトカラーエグゼンプション」の趣旨が取り入れられるのか、心もとないところです。

 

人間関係は浅くていい。/おちまさと

 

人間関係は浅くていい。 (扶桑社新書)

人間関係は浅くていい。 (扶桑社新書)

 

 

 TVのプロデュースを手掛けられてきた方が語る“人間関係”論です。

 多くの人に取って、最大のストレッサーが人間関係だとよく言われます。

 従来、社会の中で生きていく中で、特に会社に勤務する人だと、終身雇用制や年功序列制といった環境の中で、会社での人間関係を壊すことは、キャリアを損なうことにもつながり、人間関係を重視する意義があったということになります。

 ただ、そういった雇用慣行が崩壊し、ネットワーク的な人脈が重要性を増す中、従来通りの“深い”人間関係がどこまで有効なのか、寧ろサラッとした人間関係を多く持つことが重要なのではないかと指摘されます。

 ただ“サラッと”と言いつつも、決して薄っぺらな関係ではなくて、例えば年に1度しか会わなかったとしても重要な価値を見出すこともあるワケで、始終接触するようなベタベタした関係性と比べてもその“密度”が劣るわけではないということです。

 さらには、会社で過度に同質性を求められるような環境に埋没するのではなく、多様な価値を共有するといった意味でも、他人の価値観を重視する“浅い”関係性を、今後は重視していくべきなのかも知れません。

 

働く女子のキャリア格差/国保祥子

 

働く女子のキャリア格差 (ちくま新書)

働く女子のキャリア格差 (ちくま新書)

 

 

 経営学者で、自らも子育てをされている方が、子育てに経営学的な手法を応用することで、子育てもキャリアも充実させるような方策を探るといった趣旨の本です。

 ワタクシたち夫婦が子どもを持った10数年前に比べると、格段に小さな子供さんを持つお母さん方が働き続けることが増えました。

 企業側も時短など、そういったお母さん方が「働きやすい」環境を制度面や運用面を含めて整備を進めて来ました。

 それでも、お母さん方のいる現場の上司や同僚、お母さん方自身もストレスが溜まるような状況が起こりがちなようです。

 企業側が「働きやすさ」を提供することで職場の中で気まずさが出てきたり、時短などを活用したが故にキャリアを断念することになり、やる気を失った挙句、「ぶらさがり」になるお母さん方もいるようです。

 なので、企業もお母さん方もナットクの行くように「働きやすさ」だけではなく「働きがい」も持てるようにしようということです。

 そのためには企業側の制度整備や現場での運用面としての上司などの対応力の向上といった努力だけではなく、お母さん側も戦略的な思考を持つなどといった努力が必要だと指摘されます。

 そういう趣旨から国保さん自身が育休中に同じ立場のお母さん方に企業経営の考え方などを啓蒙する「育休プチMBA]を主宰されていたということで、そこを“卒業”して企業において、以前より充実したキャリアを送られているということを紹介されています。

 こういう女子のキャリア本って、対象となる人たちの恵まれなさばかりを取り上げて、制度が変わらないとねぇ、とか社会が変わらないとねぇといった無いモノねだりで終わっていることが多いのですが、この本はちゃんと自律的な処方箋が提供されているという点で画期的だと言えます。

 子育て中のお母さん方だけではなく、旦那様も、またそういう人を雇用している企業の経営者や上司の方にも、読んで実践してもらいたい内容です。

 

イギリス人アナリスト日本の国宝を守る/デービッド・アトキンソン

 

 

 『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』のアトキンソンさんが『新・観光立国論』以前に出版された本です。

 この本こんなタイトルにはなっていますが、構成要素としてはほとんど『新・観光立国論』と同じで、後に『新・観光立国論』が大ヒットして、きっとこの出版社の人は地団駄を踏んだことでしょう。

 というのも構成要素はほとんど同じで、日本人の労働生産性の低さとその要因、それを解決するための方策としての観光立国という内容で、日本人が誇る「お・も・て・な・し」のカン違いが取り上げられているのも同様です。

 ただこちらの本はあくまでも元アナリストにして、現在は伝統工芸を取り扱う会社の経営者といして、日本の起企業の取組を見てきた外国人として、日本人の労働生産性の低さとそれを払拭する方法とは何かということにフォーカスが当たっています。

 同じようなコンテンツでも切り口が違うだけで、こんなにも世間のリアクションに差があるだという、あまりにも典型的すぎる一例でした。

 

最強のスポーツビジネス/池田純、スポーツ・グラフィック ナンバー

 

最強のスポーツビジネス Number Sports Business College講義録 (文春新書)

最強のスポーツビジネス Number Sports Business College講義録 (文春新書)

 

 

 総合スポーツ誌のナンバーが、DeNAベイスターズを斬新なマーケティング手法で立て直した池田氏を“学長”として、スポーツビジネスを担う人材を育てようということで立ち上げたNumber Sports Business Collegeでの講義を集めた本です。

 講師として登場する人の中には各スポーツの競技団体で強化に取り組むトップの方であったり、スポーツをビジネスとして成立させようとする人が登壇されます。

 最近でこそ、スポーツでおカネ儲けをしようとすることを白眼視する向きはほぼなくなっているといっていいと思いますが、体育的な発想やアマチュアリズム称賛の空気があった時代の名残は色濃く残っていて、特に官公庁や制度面と言ったところで、スポーツをおカネに換えて行こうという取り組みに当たってのカベとなることが多いようです。

 このシリーズで取り上げられる中では、割とマイナー(かつてマイナーだったものも含めて)競技を如何にメジャーにしていくかというアプローチでのおハナシが多く、池田氏DeNAで取り組んだようなビジネスの色彩の強いモノは少なく、競技力の向上が最大のマーケティングだという旧来的なアプローチが色濃いことをうかがわせます。

 確かに勝てば人が集まるというのは間違いのない所なんでしょうけど、こういった取組を通して、勝敗に関わらずスポーツがおカネになる状況ができれば、逆説的ですが、より競技力アップにつながるんだろうな、という気がします。