ネット炎上の研究/田中辰雄、山口真一

 

ネット炎上の研究

ネット炎上の研究

 

 

 計量経済学の研究者の方々が書かれたネットでの「炎上」についての本なのですが、学術論文っぽい体裁なんでちょっと取っ付きにくいところはありながら、なかなか興味深い内容です。

 この本が出版されたのが2016年だということで、当時年間400件の「炎上」があったということなのですが、ひょっとすると現時点ではもっと多くなっているかもしれません。

 「炎上」ゆえにネットは怖い所だというイメージが広がっているところもあるようですが、そう言いつつも今やネット無しの生活も考えにくいという側面もあり、ウマく付き合っていく方法を見出す必要があります。

 そういった中で「炎上」様々な側面から切り取って見せてくれるのがこの本で、実は「炎上」に加担している人は全ネットユーザーのわずか0.5%程度しかいないということで、ほとんどの「炎上」ではよくよく発信元を調べてみると片手以下の人数で行われていたものだということにオドロキます。

 そういう加担者について、ステレオタイプ的なイメージでは、引きこもりの若い未婚男性と思いがちですが、実際には既婚で子供もいて、そこそこの年収を稼ぐ30代の男性が多いということも意外です。

 「炎上」によって、本来多様な意見が出てくるはずのネットでの発信が委縮してしまうという弊害も出ているようで、何らかの対策が求められます。

 この本ではサロン型のSNSを対策として提案されていますが、元々制約のない中での自由闊達な意見交換というインターネットの本来的な特色を損なうのではないかという逡巡も告白されていて、十全な対策に向けた議論が必要なようです。

 少なくともこういったことを意識していくためのリテラシー教育を充実させていく必要はありそうです。