知ろうとすること。/早野龍五、糸井重里

 

知ろうとすること。(新潮文庫)
 

 

 東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故による放射線漏れの影響について、事故発生当初よりツイートをつづけた東大の物理学の専門家の先生と、そのツイートを早くからフォローし、展開していたコピーライターの糸井重里さんの対談本です。

 

 元々、早野先生ご自身は原子力の専門家ではないとのことですが、ご自身の科学者としての経験から、オフィシャルなソースから入手できる情報を元に、科学的な素養があまりない人にも理解できるようにグラフ化などにより、誰でも知りえる情報を元にできるだけプレーンに情報を伝えるよう心掛けられていたということです。

 

 最初は、原子力の専門家が情報発信できるようになるまでのつなぎというスタンスで始められたとのことですが、なかなかプレーンな情報を発信する人がいなかったということもあり、引っ込みがつかなくなってかなり長期間情報発信を続けるハメになってしまったようです。

 

 というのも、新聞やテレビなどのマスメディアは、何か大きな問題があった時には、こぞって報道しますが、特に大きな問題が無い場合は、その情報についてはムシしてしまうことが多く、原子力漏れみたいな事象の場合、問題が無いことを証明するような情報を人々は求めるのに対して、そういった情報の提供が後手に回ってしまったが故に、必要以上に危機意識が高まってしまったという側面があるようです。

 

 そういうマスメディアのクセを認識した上で、知りたいことに関するプレーンな情報の取得の方法論について議論されていて、SNSが一定の役割を果たすことに言及されているのですが、それは早野先生や糸井さんといった、かなりリテラシーの高い方だから機能しているという側面は見逃せないところなんじゃないかと感じます。

 

 昨今では、マスメディアの過度な政権へのすり寄りや、過度のセンセーショナリズムなど、その情報の信頼性がかつてなく低下しているように思われるのですが、それだけに自分なりの情報の選別が必須になっていることを痛感させられた内容の本でした。