以前、『サービスの達人たち』のシリーズを立て続けに紹介した野地さんが、大手プロモーターのキョードー東京の創始者で、ビートルズの来日公演をプロモートしたことで知られる永島達司の生涯を追った本を書かれているのを知って手に取ってみました。
吉本興業の闇営業が問題になった時に、そもそも興業というのはヤクザのしのぎとして発展したという側面があったことを知りましたが、永島さんが”呼び屋”を始められた頃は、そういう色合いが強かったようで、永島さんの周囲の同業者のかなりアクの強い活躍ぶりも紹介されています。
ただ永島さんはニューヨークやロンドンに在住していたことがあって英語が堪能であったことから、進駐軍関連の仕事がキッカケで、興業を手掛けるようになったということで、そういう一発狙いの”呼び屋”とは一線を画していたようで、ご自身が本物だと感じた欧米のエンターテインメントを日本に紹介しようというところが興業を手掛ける動機になっていたようです。
永島さんのそういう公正な姿勢が、ナット・キング・コールなど名だたるエンターテイナーの信頼を得たようで、次々と良質な公演を手掛けて行ったというところが、ビートルズの来日を手掛けることにつながったようです。
そういう戦後の日本の興業の様子を紹介するとともに、やはりこの本のハイライトはビートルズ来日公演のドキュメントで、興業元である永島さんの周辺はモチロン、コンサートを見に行く人たち、警備を担った警察や消防の方々など、多角的に紹介されていて、その頃の空気が浮かび上がってくるような気すらします。
いわゆる興業も、今や一大産業となって、こういう際立った個人が存在感を発揮する場面は減っているのかも知れませんが、こういう積み重ねがあってこそ、世界的なアーティストの来日公演がフツーにある状況につながったのかと思うと、なかなか感慨深い想いをさせられました。