料理人の休日/辻静雄

 

 辻調理師専門学校中興の祖であり、日本にホンモノのフランス料理を紹介した方として知られる辻静雄さんが、新聞や雑誌に執筆されたエッセイを集めた本です。

 

 この本は、原稿が書かれた時期で言うとと40~50年位が経過しているのですが、今読んでも全くと言っていいほど古さを感じさせないのが不思議なんですが、今なお日本ではフランス料理がそれほど浸透していないということもあるのかもしれませんが、今なお、辻さんがアプローチされたようなフランス料理の深みに到達した日本人がいないからなのかも知れません。

 

 以前、辻さんの事績をたどった伝記とも言うべき『美味礼賛』を紹介しましたが、その中でも、名だたるフランス料理界の重鎮との交流を紹介されていましたが、この本でもそういう人たちとの交流についても触れられていて、得てしてそういう言及が自己を押し出すためのネタとして使われがちではありますが、辻さんの場合、そういう域を超越しているという印象を受けます。

 

 辻調理師専門学校を受け継ぐ以前から、クラシック音楽や文学などの芸術に深い造形があったようですが、ある意味そういう興味と同種のハマり方をされたように見受けられるのですが、それでも辻さんは、あくまでもフランス料理の提供というのは、プロの職人として、お客さんに味わってもらってナンボという意識を持っておられるようで、「芸術に最も近く、しかし、芸術であってはならないもの、それが料理なのである。」とおっしゃっているのが印象的で、芸術と料理に深くのめり込んだ辻さんだからこそのコメントでもありますし、それが料理を突き詰めたからこそのコメントでもあるのかも知れません。