スポーツアナウンサー/山本浩

 

スポーツアナウンサー――実況の真髄 (岩波新書)

スポーツアナウンサー――実況の真髄 (岩波新書)

  • 作者:山本 浩
  • 発売日: 2015/10/21
  • メディア: 新書
 

 

 メキシコW杯アルゼンチン-イングランド戦でのマラドーナの5人抜きゴール時の”マラドーナ”3連呼など、数々のサッカーでの名実況で知られる伝説的な元NHKアナウンサーの山本さんが語られるスポーツ実況論です。

 

 サッカーでの実況が有名ですが、NHKのアナウンサーなんでサッカーばかりと言うワケにはいかないということで、様々な競技のことも語られていますし、テレビの放送にまつわる技術の進化に伴う放送そのものの進化や、スポーツ中継の段取りなど、様々な要素のが盛り込まれていて、日々スポーツ中継を楽しみにしているワタクシとしては、なかなか興味をそそる内容が満載です。

 

 スポーツ中継における実況なんていうと、それはそれで難しいとは思うのですが、アナウンサーはただ目の前の出来事を伝えているだけと思う向きも少なからずあるはずですが、かなり広範な役割を果たされていることに驚きます。

 

 山本さんはスポーツの持つリズム感を重視されていて、野球なりサッカーなりのリズム感があって、それを損なわないように心を配られているようです。

 

 特に日本のテレビ局におけるスポーツの実況では、伝統的なニーズの関係か、野球の中継に携わる人が多いということで、どうしてもその経験に引きずられることが多いようで、野球のような切れ目が少ないサッカーの中継には苦労されることも多いようです。

 

 さらに動きの少ないクレー射撃の中継で苦労されたエピソードも紹介されていますが、おそらくオリンピックくらいでしか中継の機会もないでしょうし、視聴される方は割とコアな層が多いでしょうから、苦労されたことでしょう。

 

 昨今、特にサッカー中継でやたらと絶叫するアナウンサーが見受けられますが、山本さんはそういう”絶叫系”について、自然に試合の盛り上がりにつれて出てくるものであれば有効ではあるモノの、ムリヤリ盛り上げようとそれをやってしまうと、かなりスベッてしまって、見ている側がシラケてしまうことになりかねないということで、使い方には相当慎重になった方がいいとおっしゃいます。

 

 そういう風に山本さんは如何に視聴者がその試合を楽しめるかということにフォーカスして、しかもスポーツの魅力の粋をよく理解してそれを的確に伝えようとしたからこそ、伝説のアナウンサーになったんでしょうね…