教養としての「地政学」入門/出口治明

 

教養としての「地政学」入門

教養としての「地政学」入門

 

 

 出口さんが「地政学」の基本的な考え方とヨーロッパなどを中心に、歴史的にどのように展開されてきたかということとともに、地政学における日本の在り様も紹介された内容の本です。

 

 地政学が学問として成立したのは19世紀だということですが、含まれる考え方と言うのはローマ帝国の頃から実行されていたということで、具体的な事例について「陸」と「海」に分けて語られています。

 

 この本の中で出口さんは「地政学」について「ある国や国民は、地理的なことや隣国関係をも含めて、どのような環境に住んでいるのか。その場所で平和に生きるために、なすべきことは何か、どんな知恵が必要か。そのようなことを考える学問です。」とおっしゃっておられて、あくまでも「国は引っ越しできない。」ことが地政学が存在する前提だと指摘されています。

 

 「陸」と「海」に分けて語られているということですが、元々地政学における重要な概念として「陸は閉じ、水は開く」と言うモノがあるということなのですが、これは、鉄道やクルマなどができる以前は、陸における機動性は、海におけるものと比較すると著しく劣っていたこともあって、陸での戦略と海における戦略が著しく異なることになったことを象徴しているということで、「陸」と「海」それぞれの戦略について語るのが妥当だということのようです。

 

 ”知の怪人”佐藤優さんや池上さんが語る地政学の本で、「海洋国家」「大陸国家」とおっしゃられていたのは、そういうことだったのかと合点がいった次第です。

 

 「陸」の地政学に基づく戦略について、「サンドイッチ」戦略の事例を解説されているのですが、自国が隣接する国と敵対している場合、その反対側に位置する国と同盟関係を結び挟撃する戦略を指すのですが、これが地政学的にかなりベーシックな戦略だということで、古代から近世に至るまで繰り返されてきたことを紹介されています。

 

 それに対して、「海」の地政学は格段にダイナミックで、如何にして自国が面する海域の制海権を握るかが雌雄を決するということで、古代ローマ帝国から近世まで続く地中海をめぐる争いとその結果に基づく覇権の推移を紹介されています。

 

 さらには、日本の置かれた地政学的な意味合いについて解説されているのですが、日本はいわゆる極東で、かつ隣国とは海を隔てて接しているということと、石見銀山の”シルバーラッシュ”の時期を除けば、さしたる資源もなかったこともあって鎖国のような政策を取れたこと(鎖国政策について出口さんは、史上最凶の愚策と繰り返し著書の中で指摘されてはいますが…)を指摘されています。

 

 ただ、現在太平洋を隔てて遥か遠くに位置するアメリカとの間を除き、隣接する各国とすべからく領土の係争案件を抱えているのが、世界史の中で見ても稀有だと指摘されていて、それはあくまでもアメリカとの同盟関係ありきだとおっしゃられていますが、地政学的に見て、日本は、中国との同盟と言う状況的にあり得ない選択肢は存在しますが、アメリカと同盟を結ぶという選択肢しか、事実上存在しないにも関わらず、アメリカには多くの選択肢が存在し、冷戦終結後、日本との同盟の意義が下がっている中で、自国の在り方をもっとマジメに考えた方がいいんじゃないかと、警告を発せられています。

 

 ということで、割と世界情勢の中で語られることの多い地政学を、そもそも論のことから語られていて、非常に理解もしやすかったですし、今後の日本についても考えさせられる素晴らしい本でした。