江戸城無血開城の深層/磯田道史+NHK「英雄たちの選択」制作版

 

 

 NHKの歴史番組「英雄たちの選択」から、江戸城無血開城に纏わるテーマで放送した回からのエピソードに沿って、磯田センセイが執筆された本です。

 

 その中には、江戸城無血開城そのもののテーマに併せて、慶喜の生涯、篤姫和宮江戸城無血開城に果たした役割、西郷と西南戦争の4つのテーマが取り上げられています。

 

 最近大政奉還を前後とした時期に、慶喜を始めとして主要な関係人物の書簡が数多く発見されているということで、かつての印象とは異なる解釈が出てきているようで、この本自体は2018年の出版なのですが、磯田センセイ自身が時代考証に携わられた「西郷どん」にも盛り込まれていた、王政復古の大号令以後の慶喜の徹底した恭順の姿勢の動機などにも触れられています。

 

 特に鳥羽・伏見の戦いの際に、慶喜大坂城を出て秘かに江戸に移動していたことや、江戸の徹底殲滅や慶喜の首を勝利の印としていた西郷が江戸攻撃を断念したことなど、どこか不可解な選択が散見されますが、この本を読むとその時期の取り巻く状況から見て、現在のワタクシたちからするとかなりナットクの選択だったことがわかります。

 

 特に慶喜が幕府や徳川家を優先に考えるのではなく、内戦が長引くことにより中国のように諸外国に蹂躙されることのリスクを考えて、徹底恭順の姿勢を取ったということは、当時としては卓越した慶喜の世界観のなせるモノだったということを改めて認識させられます。

 

 また、江戸無血開城交渉の立役者となった勝海舟は、薩摩に影響力が強かったイギリスに働きかけて、江戸が焦土となった場合の貿易上のデメリットを訴えさせ、薩摩に江戸攻撃を断念するようにプレッシャーをかけさせたのが、江戸無血開城のかなり大きな要素だったんじゃないか、というのがかなりナットク感が高く、かつダイナミックな解釈で唸らされます。

 

 慶喜の首や江戸焦土という薩摩側の姿勢は革命軍として仕方のない部分はあるのですが、江戸を保全しようとした慶喜や勝を始めとする幕府側の世界観は、その後の発展を考えると大いなる先見の明があったと思われ、江戸が焦土になっていたら今日の日本の発展も無かったんじゃないかと思うと、彼らの功績は称賛してもしきれないモノだったということを改めて認識させられた次第でした。